招き迎えてくれる様に。


これは2年前の夏に撮った、アルテピアッツァ美唄の彫刻。
カフェの奥の山裾に広がる、広場を見守る白い門だ。
以前の彫刻は、この奥の山の細道になるほど!という具合に移る。


山を背に緑の野に映える、実に存在感のある大理石の彫刻だ。
大きな門の構えは地形に沿って自然に広がる「広場」を見守り、
秩序を与える存在にも見える。



    
以前の彫刻は広場に点として在り、それはそれで面白かったものの、
この広がりを見通す存在ではなかった。なぜ、そう感じるのだろう?
(写真左は以前のもの、右は現在のものです。)






正確に方位を計ったことはないのだけれど、これは北を向いている。
人の目にはとても綺麗に見栄えるのに、写真を撮るのは難しい。
いつも正面が陰る。先日訪ねた時に、裏から撮るとこの具合。
春のグレーの森にも映える白さは陽のおかげだ。


良く見ると実にクールな背面の姿だ。線が少ないことに気付く。
なだらかな丘陵の頂に位置するこの彫刻、後ろから撮るとは、
若干ではあるものの見下ろしての撮影となる。にもかかわらず、


門の内側の「底面」、ここが写らない。


なぜ写らないのか?
それは、この底面が丘陵の傾斜よりも傾いているから。


これは非常に大きな意味のある傾きなのだ。






昨年末に札幌市内で開かれた屋外の彫刻展示の風景、
同型、おそらくは同寸のブロンズが大通公園に在った。
この時に展示されたものの中で最も力強い塊感のある彫刻。


縦横、どちらでも設置が出来るのか!と驚かされたけれど、
直ぐにアルテの彫刻であることに気が付いた。


ただ、その印象は異なっていた。
広場の秩序を与える存在、その秩序とは「印象」のことだろう。


この彫刻は何とは感じさせず、公園の一つの点として在った。
四方から見られるこの点は、分厚い門の塊感(マッス)、重さ、
存在感を効かせている。


計りはしなかったけれど、アルテの大理石の白い門のように、
傾斜はなかったのではと思う。


ここに求めたのは、この重さによって空間に重みを与え、
重力を与えて点に意識を集中させること、であったのかな。






アルテにあるこの白い門は、訪ねる人を温かく迎えてくれる。
この印象が実に心地よく、おそらくは誰しもが感じるもの。


門の内側の側面、上面、底面が常に目に入る。・・・開かれた姿。
直角で造られた大通公園のような形状なら、もっとクールになる
のだろう。白さや大理石の質感が温もりを生むのではないのだ。


この丘陵の広場に入れば、見上げるにも関わらず底面が見える。
その角度、安田さんは考え悩んだに違いない。


なぜなら、開き招くことを意識しただろうから。
この彫刻が独りよがりにクールに佇み、そのカッコ良さを
アピールするならそれも良い。


そうではなく、この広場を人の集う場所へと考えれるなら、
この彫刻がどのように作用するのか、当然、大いに悩むことになる。


流石だなと思う。
その作用を意図すればこそ出来る底面の、傾斜のデザイン。
「どうしたいのか?」を正しく判断出来なければ全く不可能だ。




自分は建築を志して直ぐ、このことに興味を覚えた。
この「感じる」類の事柄、頭で考えることとは相反する。


自分はたくさんの良い空間に出会い、この感覚を体で覚えた。
空間に作用すること。建築が出来る最も重要な機能だと思う。


映えるデザインの追求は、実は感じることを必要とはしない。
むしろその方が問題を優しくしてくれる。
クールに佇むのは気取れば良いだけだけ。しかし、
人を温かく迎える佇まいは?どうすれば良いかなど答えがない。


北を向いて陰る白さを心地良く写すのは至難なことだろう。
メディア受けを狙うなら、避けるべき姿だろうなとも思う。






こういう告白は、自分の手の内の公開でもある。
ただ、これは告白しても問題無いほどの難問なのだ。
建築においては、これほど難しいデザインの問はない。


このような空間作用を知らぬ設計で街は満ち埋まっている。
その作用の存在を知ったところで、知っただけで出来る、
そんな甘いことではない。


これを自分に教えてくれた建築は、その内に紹介したい。
時間も労力もお金も要する上に、写真には写らないので、
価値を伝えるには実際に体験して頂くしかない。
実に微妙で繊細な、心底些細な素晴らしい感覚の類なのだ。


アルテピアッツァに行ってこの彫刻に出会う時、
先ずは、ただただ感じることを十分に楽しんで欲しい。
その後に少し注意を払い、観察もしてみることをお勧めしたい。


なぜ?というヒントを得られたなら、これを成した人の
心意気に感謝したくなるかもしれません。




この内側を見せるという手法は実に温もりが在る。
手のひらを広げて、招き迎えてくれる様に。



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