DOMA / yamanote 【O邸】  解説 (堅い長文です。)

O邸は山の手の閑静な住宅街にある。風致地区にありゆとり
ある緑多い環境が魅力だ。景観は良い、しかし周囲は住宅に
囲まれ、住まう空間を創るには工夫が必要でもあった。


敷地は方位に約45度の傾きがある。これをヒントとして配置を
計画している。近隣の多くは道路側を庭として空けているけれ
ど、それではなかなかプライバシーに配慮した住環境は難しい。


敷地を縦に2分割して一方を建築、他方をプライベートなコート
として対をなすコートハウスを計画している。道路からの視線を
遮り物置を介して奥にプライベートな生活空間を創っている。


敷地を一体的にデザインし地面に近く人やコートと親しい大きさ
の可愛らしい佇まいは、景観の良さをオープンに感じつつプライ
バシーある生活空間の住まいとなっている。




プランを見ると住宅とコートの関係が良くわかる。室内プランの
要となるのはDOMA。コートに面する吹抜の大きな空間は大小
様々な全ての居室が接し多様な表情を生み出している。


小さな佇まいの外観に対してこのDOMAはまるで”外”のような
スケールの開放感がある。オープンなLDKを基本とする1階は
このDOMAを介してコートと一体的な生活空間となっている。


水廻りは勝手良くどれだけコンパクトに納められるかがポイント
であった。造作の浴室、洗濯室を備え、キッチンはLDから見え
ない大きな収納スペースを設け家電、食器棚を収めている。




2階はプライベートなワンルーム。その両端をベッドルームとし
中央を可動する家具間仕切りによって2つの書斎(STUDY)と
ウォークインクローゼット(4.6帖)を作り、生活をスタートする。





四角く切り分けられたショートケーキのような外観は表に露出
する窓は少ない。反対に塀に囲まれるコートに面しては5mを
越える連窓(掃き出し窓)が並び開放感は抜群でもある。



採光:直接光を取り入れ熱源とするDOMAの連窓。隅の暗が
    りをなくし清潔感のある空間とするために、必要な明るさ
    感は壁、天井、床を照らすよう適所に窓を設けている。


    室内の明るさは大きな窓を設置しても直接日射だけでは
    不十分な上に寒暖差が大きく不快の原因ともなる。重要
    なのは壁や天井、床面を広く照らし、明るさ感を創ること。


換気:床暖の施されたDOMAの吹抜を伝う重力換気が期待で
    きる。基本は南から北への明快な経路とし、機械換気も
    同様の無理のない経路を確保している。


眺望:LDKはDOMAを介してコートに開放的に連続している。
    空間の抜けを良くする窓を周囲の住宅に注意して各所に
    設置している。三角山への眺望は注視した一つである。
   



1階、2階共一室の2ルーム構成の室内、構造は単純明快に
無理なく効率的なスパンで造られている。出入のないプランが
そのまま箱型となって外観となっている。






暖房はガスを熱源とし1階を床暖房、2階の一部に補助として
パネルヒーターを設置している。床暖房とは低温の広いパネル
ヒーターとも言える。低温であり建物への負荷は小さい。


室内の全てのモノを暖め、冷気を感じさせない床暖の快適性は
高い。室温は低め、空気は動かず吹抜があっても通常は2階の
方が室温は低くなり寝室等に適している。





■ローコストへの取り組み。


コストを削減する一手は既製品に置き換え仕様を落とすこと。
システムキッチンにユニットバス、既成の建具 ・ ・ ・ とすれば
あまりに容易に目標額に到達出来ただろうと思う。


O邸では仕様は落とさずにローコストの可能性を追求している。


ポイントは”モノ”を無くすること。ドアは実はトイレしか設けてい
ない。プランが成立するのであれば何ら支障はない。ただし、
そのようなプランを創り出すには相当な労力を要することになる。


キッチンを製作し、浴室を造作するにも無駄なコストを掛けぬよ
うに仕様を吟味し、納まりの工夫も欠かせない。デザインの面
から支えるよう対価としての労力を惜しまずに取り組んでいる。


そして自分で施工すること。O邸ではクライアント自ら木塀を塗り、
室内の一部に珪藻土も塗っている。これを楽しめるのかどうか?
適性はあるものの、将来のメンテナンスを考えるなら建設時に
適切な助言を頂きながらの経験は大きな価値があるものと思う。