一言

お寺の仕事、所要で役場を訪ねた際に古い友人に会う。「良い季節に
なったよ。」という彼の一言が耳に残っていたからだろうか、5時間弱の
帰り道にも関わらず道を曲がれたのは。


何時にもまして、何時にも変わらず美しい場所だ。




雲が立ち込め、夕日が透かし漏れ、壮大なパノラマが私一人のために
繰り広げられていた。ただ美しいではなく、怖いくらいの出来事に思えた。


誰も居ない湖畔は、実際、相当賑やかではあった。ウッソウとした森の
奥からは絶え間なく鳥達の声、湖面は魚が跳ねて数々の波紋を広げ、
空には猛禽が舞い、ヤンマが回りを飛ぶ。 ・ ・ ・ 蚊にも刺されるし。



風のない新月の夜なら天地に星が望める。いつだか、そう願って夜更に
訪ねたことがある。着くと霧であった。真っ暗な霧の森の湖畔に立ち、
我に返って怖気づいたこともあったっけ。叫んでも誰もいない深い森。






刺された蚊の痒みだけが現実のようだった。しかし、それにしても痒い。