トレース、その1

20世紀の建築には3巨匠が在ったという。
ミース、コルビュジェは前夜に触れている。
もう一人はフランク・ロイド・ライト
実は先月、東京で彼の建築を訪ねている。


自由学園 明日館。池袋の駅から程近く、
見学が可能の上、珈琲まで頂けてしまう。
池袋の街並みを背景にして見事に佇む建築、
重要文化財に指定されている。


左右対称のシンメトリーの構成、建物群が
広くとられた庭を囲い、落ちつた景観を、
住宅街に築いていた。訪ねた日はセミが鳴く
ほど暑く、陽射しも強く・・・でも、その
おかげで写真は綺麗に撮れただろうか。


綺麗な装飾窓の嵌る中央棟、室内は案外素朴。
安価にという制限、しかし手の込みようは、
見事、今の時代に求めるのは難しいだろうか。


敷地にはやや高低差があるのかもしれない。
広場に面してはフラットな地盤、しかし、
微妙に建物床には高低差が設けられていて、
それを切欠にして中央は見事なスキップする
フロアー構成がある。前の写真の中央棟の
広間、その背後に半階上がるとこの食堂が
あり、そこから半階登ると再び先の広間の
上部ギャラリーに辿り着く。


実に楽しい建築。


ともすれば、便利や効率、機能性が尊ばれる。
それが長所と思われる嫌いがあるけれど、
実は『楽しさ』と対になる事は不可避である。
どういうバランスを求めるのかに個性が
出てくるだろうか。


出会った瞬間から高揚させる景観、内部に
至っては縦方向にも目くるめく展開があり、
素直に楽しいと思える空間は見事だった。


自由学園は女学校というものらしい。
当時は生活するかのように使われた校舎、
学びの場であり生活の場でもあったらしい。


訪ねる前は、完成度の高い建築なのかと
考えていたのだけれど、そうではなく、
元気な建物という印象を受ける。


長押のような位置に設けられていた見切木桟は、
広間や食堂に入ると自由に室内を動きまわり、
天井を這ったりしつつ快活な様が創られている。
モジュールや何かしらの規則に拘束されず、
突然始まり、唐突に終えてしまうことのある、
この桟の線がとても印象に残っている。


広間の正面、屋外広場の中央にある棟の内観。






建築って、実は楽しい。
3巨匠には各々代表する住宅がある。最早、
建築士の試験に出ることもない有名さである。
自分が見た一つはコルビュジェサヴォワ邸。
若かりし私は、それ相当に意気込んで訪ねた。
2日通い、その2日目に確信する。


結局、様々な言い方は出来るのだけれども、
この自由学園も堅く語ることも出来るけれど、
サヴォワ邸を面白かったと書く本は稀としても、
事実はやはり、楽しいのである。
人の生活する、使う場所は、楽しい方が良い。


『楽しさ』を表題にすると実は、設計は俄然
難しくなってしまう。その探求は永遠の命題。
機能性は魅力だけれど、便利や効率性は
楽しさに比べると解けるパズルのようである。


解けないパズルを解く時は、あの桟のように、
自在に室内を這い回ることも可能になるのか?
そういう前例を見てきたように思う。


ということで、図面を手に入れトレースを
してみた。本当はもっと詳細な図面が欲しい。


空間のヴォリューム、室内の高低、大きさ、
要素の密度などを計り、覚え学ぶ。直近に
その空間を体で覚えているだけにリアルな
追体験が可能だ。


ライトの個性を模倣することはないけれど、
そこに在る空間は学びたい。
CADは便利、トレースした図面を早速、
自分の携わった建築図面に落として比較し、
なるほどと思いつつ夜を過ごす。


実は、仙台で竣工した住宅、刹那ではある
けれど、その空間を身に染みこませた上で、
ここを訪ねる冒険をした。負けてしまわぬか、
不安もあったけれど、解はいつも千差万別、
『楽しさ』はどこまで追求しても、し過ぎる
ことはないことだけは間違いない。