【 MoAi in ny Story vol.26 】 上棟

約一ヶ月ぶりの、書き溜めてはいないので、気ままな再開。
昨年竣工した帯広の住宅、27坪の2世帯住宅【 MoAi in ny 】の設計過程を案内します。
設計の業務はデザインはもちろんですが、建築規模や予算を取りまとめ方針を定める『計画』、
その計画案を施主の要望、予算、法的整合性のある具体的な図面を製作する『実施設計』、
建築が始まれば、その細部までを含め要望に適う建築を目指すべく取り組む『監理』、
この三つの仕事が設計です。でも、案外内容は未知なもの、一つの住宅を設計事例を通じて、
私の設計の業務を案内したく書き出したのが昨年11月、今月を目処に書き上げたい。



【 MoAi in ny 】の建築本体工事が始まったのは2016年の5月末の事。
墨出という先ずは正確な建築位置出しから始まり、土工事と言う地面を掘る工事を経て、
配筋し、型枠を取り付け、コンクリートを打設までの基礎工事をとり行う。


監理業務では、敷地と建築位置の関係や高さを含め図面の通りかを確かめ、
構造の要となる基礎が図面仕様に相違ない事を確認し、同時に木工事に備えて
プレカット図面のチェックに取り組みつつ、仕上材の確認までを進めていた。


クライアントには現場にて建築位置等を確認頂き、仕上材決定に備えてパースを提示、
施工者と一緒に様々を案内しつつ、確認頂きつつ過ごす。


前回の記事にてプレカットの事は記している。知床の業者が用意された材が運び込まれ、
それは一気に立ち上がる木造骨組み。棟が上がり構造が組み終える時を『上棟』と呼ぶ。
木造はこの時が特に美しい。本当に美しい。私はこの時が特に好きだ。


何が建築を支えているのかが視覚的にも良くわかる。
木造は柔軟な加工が可能でもあり、複雑に対応する事も出来るのだけれど、
私はよりシンプルに組み上げられる様に設計に取り組んでいる。
実施設計ではそれを図示し、プレカットではこれをどう作るのか?が問われ、
整合性を保ちつつ改善出来る所は修正し、問題点があれば解消し、
施工者、この時はS工務店のI氏と長々打ち合わせを重ねて取り組んでいた。



という事で上棟のその時を見たく、現場打合せの予定は密にI氏と相談し予定をしていた。
大工の棟梁が隅付けをして材を加工し刻んでいた頃は随分時間を要していた在来木造は今、
プレカット全盛でもあり、運び込まれた材は、この時は応援の大工の手も借りることもあり、
一気に立ち上がる。屋根は合板を張りルーフィング材による止水、壁も合板施行までを
迅速に行い、風雨から構造を守る事が出来るので、この点はとても望ましい様に思う。


【 MoAi in ny 】は正直、とても小さい上に構造は非常にシンプルでもある。
LOFT構成ではあるものの、それらは構造上は主要ではなく、本体はとても簡明。
私の希望で上棟の姿を拝める日を定めて現場打合せを予定していたのに、工事は先に進み、
・・・現場を訪ねた時は既に合板が張られていた・・・あぁ!


現場としては喜ぶべきで順調と言う事、待つ理由はなく私への褒美もなく素早く進む。





どの建築でもいつも、クライアントは無理をしてでも見て欲しいとお願いをします。
この状態は二度と見ることのない綺麗な姿なので、スケルトンの建築の美しさを実感して欲しい。
上棟時、かつては『餅まき』という慣習があった。私は十数年前のお寺の現場で経験したのが最後。
おそらく昨今は上棟時に建築をクライアントに見て頂く習慣はないように思われる。


打合せ名目は上棟時検査、工事記録写真は必須ではあるけれど、その時に打ち合わせを合わせずとも足る。
けれど、個人的には特に見ておきたいシーンなので懸命に調整するも、いつも苦労する瞬間だ。
無事に工事が進み、一安心できるタイミングでもある。


出来れば青空の下でその姿は見たい。木軸との対比が実に綺麗。その姿、実はクライアントが見て頂けた。
添付の写真はクライアント撮影のもの。本当に良いタイミングで絶対の時を確認頂けた様子です。
それが何より嬉しい。こんな綺麗な写真はなかなか撮る事は出来ません。本当に良かった。




打合せ日の前日、I氏に電話で確認した所、「順調です。」との解答、つまり、工事は先へ進みますと。
私がかなり残念な様子にいたたまれなく感じて下さったらしく、翌朝の打合せ当日早朝、現場が始まる前に
現場でわざわざご自身の一眼レフを構えて何枚も写真を撮り、送って下さった。


まだ朝もやのある頃だろうか、素敵な写真を業務外だろうに、クライアントではなく設計者のために、
用意して下さるとは何と嬉しい配慮だろうか。嬉しくて何度も何度もお礼を次げた記憶が残る。


着工前の、工事序盤で送りつけた詳細スケッチを面倒がらずに、むしろありがたいと言って頂き、
この日までに互いに互いの事の多くを知らずに一つの仕事に没頭してお付き合い頂き、
仕事の中で生まれた必然の関係なのだけれど、互いの責任を果たすべく抜かりはない状況であっても、
私にも心配りをして下さる施工者と出会えた事に感謝しております。


上棟は2016年7月初めの事。




写真一枚目を眺めると、愕然とするほどのシンプルさ。本当にこれで良いのか不安になる程。
写真二枚目は間柱が納まり密実に見える上に足場も立ち上がり・・・それにしても、本当に早かった。