【 MoAi in ny Story vol.27 】 上棟時検査


と言う事で私が上棟時検査に立ち会った際は既に外壁合板施行も大詰めであった。
その前が基礎工事であったので、立ち上がっている喜びを実感させられる。



大工の棟梁は、私の来る日は当然知っている様子なのだけれど、何というか素直ではなく、
決まって背を向けて実施図面やスケッチを眺めていたなー
特段の挨拶もなく、ここはどうする?これは難題、等々用意されていた質疑をぶつけて下さった。
訪ねた際に見せられる背中がとても印象に残る。


基本的には現場代理人がその全てを事前に現場に伝え検討をされている。
現場では決められない部位は当然、発生するので、それは監理時に多くは現場で打ち合わせをする。
内容によってはクライアントに判断を頂く事柄もあり、意図せぬ工事とならぬよう注意し、
工事関係者のコミュニケーションを大切に、良く話すように努める。その方が良い成果を得られる。


大工さんは職人であり、腕があり、応えるべく取り組まれる。私は適切に現場に要望出来るかが問われる。
誰でも出来る平易な納まりなら、勝手に現場は進む。既製品で作られる世の中の殆ど全ての建築現場は、
設計者の意図など関係はなく、こういう仕様ですから!として進んでいる。


コストは掛けられないものの、質を求めて取り組むローコスト住宅では、決まった仕様はなく、
【 MoAi in ny 】でも様々な取り組みをしている。かなり挑戦的なものもあり、打合せは真剣だ。
大工に「それは出来ない。」と言わせぬ対話が必要。
逆に、これは甘いと指摘されれば最良を求めて、その場で実寸スケッチを描き出し相談をする。
なんなら事例写真をタブレットで提示しつつ、あの手この手で現場には示し、要望レベルを伝える。


初めて、実寸大のスケールで空間を体感する瞬間が上棟時。特に外壁の構造用合板も施行されており、
実態が良く分る。自分の創造した空間が、果たして何なのかが徐々に出来上がるのだけれど、その初見。
長さは十分に長い事が理解できた。実際、歩けば遠く、遠くで作業を眺めると距離感を実感出来る。


写真は3人の大工が写る。この後夕方にはクライアントを交え、現場代理人のO氏、I氏の5人で、
正にこのリビングスペースにて打合せをする。


広くはないリビング・ダイニングのスペースは、実は、実面積では10帖程の空間しかない。
極めて変則的な幅の建築でもあり、けれど背は高く長い建築空間が機能するものか?確かめたかった。
この時の打合せでは、この事の実際の空間の確認こそが実は、私にとっては最重要事項であった。


3人の大工が近いところで作業をしても支障のない様子を確かめてみたり、
クライアントとの打合時には、失礼ながら時々スー離れては眺めるを繰り返しつつ過ごした。
大人5人が一所で話し合っていても狭さは感じられず、離れれば明らかに遠くなる事を確認する。


間違いがないと、初めて確認出来た瞬間でもあった。


建築は上棟すれば、次いで外装下地までの工事が順次進行する。
外装の仕上げ工事に際しては仕上材決定の必要があり、大工工事は内装に移るのは目前、
内装工事に用いる仕上材の決定も目前。決定前にはコスト内での選択肢を確認し、
現物サンプルにて、クライアントには確認を頂く。


床材、仕上げ木材について、塗装見本を提示する。木目が目立ち過ぎるという指摘を頂き、
更に塗装の調整を代理人に依頼し、この日の打ち合わせを終える。


そんな現場で過ごした一日、夕暮れ時にキッチン上の、この住宅唯一の西窓からの陽射しを見た。
西日は夏も冬も暑さを伴い、低い太陽は眩しさもあり、私は肯定的には使わないのだけれど、
その低く長い陽射しは実に印象的な空間を作り上げる事もあり、大切にしてもいるのだけれど、
この窓はきっと、印象的な日常を担ってくれると確信できる瞬間だった。




一点追記すると、現場の様を確認すると言う事も監理では大切になる。
設計監理当日故に配慮される事もあるかもしれないけれど、この現場にそれはなく、
いつも、綺麗な状態が保たれていた。上棟から外装下地と一気に突き進む現場にあって、
けれど混乱し雑然となることなく、整然とする現場の光景は実に気持ちよく印象に残る。
施行されたS工務店の意識の高さは抜群だった。


幸運にも私は、これまで施工者には恵まれているものと思っている。
設計に携わった現場は全て印象にあるけれど、汚い現場は一つもない。
作業空間に相応しい環境を作ることの出来る施行者、業者制定では重要な基準になるものと思う。