広げる事。

随分以前に設計した公衆トイレ、もう20年になる。
橋の架け替え工事に伴い発生した三角形の土地、
ここにトイレをと言う橋改工事の一環であった。
・・・おそらくノーマルなら計画から実施設計は
1、2ヶ月で終わる程度だったに違いない。


自分主体に取り組ませて頂いた初期の頃の設計は、
唯の公衆トイレに終わらせないために、
勝手に設計条件を付与し、壮大なものにしてしまった。


近々に新築のない古い町がその舞台だった。
近隣でこのようなケースは派手で賑やかな佇まいが
多く、とても受け入れられなかった。


そこで、歩ける範囲の小さな町でもあり、歩いた。

集めたのは近隣全ての建物、その特徴や質感を
一枚に整理したものがこれです。


普段は見知らぬ人など居ない町でもあり、
写真を撮っていたら不審者扱いを受けてしまった。
休日に調査をし、不審者となり、馬鹿みたい。
でも、一生懸命だった。



調査の最中に見つけたこれは特筆すべき建築。
今は無いこの建築は芝居小屋だった。
当時は倉庫になっていたのだけれど、内部の壁、
そこには幾重に重ね貼られたポスターが在った。


古くは木を切り出し川に流したらしい町で、
賑わっていた時期には遊郭すらあったらしい。


向かえの家の方に話を聞く事ができた。
その方は小さな頃、拍子木を持って町を練り歩き、
この芝居小屋での祭事を伝えたのだとか。
これを縁にして何度か訪ねる機会があった。
曰く、保存を町に話したもののお金はなく、
保持すれば税金の対象となることもあり・・・
あえなく取り壊されてしまった。
ポスターも全て失われてしまった。


結局、あれこれ自分の足で歩いている内に、
様々を知る事となり、少なくとも、派手で目立つ
建築ではトイレの町になり兼ねず、それは嫌だった。


という設計調査の末に、素っ気無く在り、
やや少し新しさのある建築を考えるに至る。


敷地はこの町の中心地に在った。
ただの公衆トイレの設計は何時しか、町並み
再編の取り組みにすり替わっていた。


広げる事、これは肝心な事ではと思う。
住宅一つの設計でも、与えられた敷地の中に
留まらず、地域に目を向けられれば、
もっと大きな存在に成れるのではと思う。
意味や意義、価値はそうして築かれるかもしれない。
違うかもしれないけれど、無意味ではないと信じる。


実際、かなり変わった建物を設計している。

川面以外は町並みに接している事もあり、
3方は裏面にならぬよう配慮をしている。


このような感じ。質感は今ある近隣の建築に似せ、
奥まる面に鋼板を忍ばせてギラツかせている。
明らかに変わった形態にもかかわらず、一見では
さらりと見過ごせる程に静かに佇ませた。
・・・何だかわからないと大きな看板が後に立ったが。
設計内容は、また別の機会に書こう。



と言う事で、卒業設計で広義を探す取り組みをした私、
いつしか設計では敷地に収まらない取り組みを常とする。
でも、それが楽しい。他の何かと関係し、築く。


今取り組んでいる設計も、周囲の理解から入ってしまい、
なかなかカタチにまで辿り着けずに居るのであった。
この週末はA1サイズで周辺模型を作り出す始末。





光も大きさも、質感も得た建築だった。