オーナーに種を明かし、確認頂く嬉しさ。

あるオーナーが今、北欧にいて写真が届いた。
北欧はフィンランドヘルシンキにある建築の写真。
アルバ・アアルトの今は古い建築なのだけれど、
これは素敵な建築の一つだ。価値は普遍とも思える。


今はもっと上手い設計者はあるものと思う。
でも、この想は格別、具現の成果は別格、特別。


このオーナーとは住宅設計の際、特に採光の方法含め
建築形状について、再三問われ、幾度も説明をさせて
頂いた。見たことのないものへの理解、価値の発見は
難しく、にも関わらず私を信じて判断を下さった。
私にとっては貴重な設計機会ともなり実に印象に深い。


住んでしまえば、実はその後は彼の方が良く知る人となり、
ある時私は泊めて頂き、朝夕のある日のウツロイを見せて
頂いた。私はその時初めて、自身の設計の成果を知った。


考え抜いて設計はする。でも、その日常を設計者自らが
知る機会は実はまず無い。誰も正解を知らないのだから、
「こんなもんです。」と濁しても問題にもならないかも。
でも、自分はそれが嫌だ。
誰に見せても「でしょ?」とオーナーと一緒に笑いたい。


悩まれた採光の秘密、そのヒントが添付の写真、
オーナーが送ってくれたもの、私が案内した建築。
入れ子という特殊な採光方法は陽の低い北欧において、
如何に少ない光を効果的に室内に配れるか?という解答。
本当はもっと好きな事例もあるのだけれど、
ヘルシンキからはやや遠い。


入れ子はまだ使った事のない未知の方法なのだけれど、
他の方法は実証実験し、実践し、経験を積み、これまで
成果を得ている。この設計者が欲した光の質があり、
方法は様々なのだけれど同じ性質だ。
種、私の設計の種を明かし、実際にオーナーに見て頂ける
という稀な機会。
オーナーは既に何年も設計した家に住まわれ、
そこに在る光の性質を熟知する方であり、
その方に見て頂く事は恐怖でもあり、でも興味深い。


あれは本物、これはまがい物、等と思われては悲しい。
形態のデザインなら模倣は可能かも。真似る事は出来る。
けれど、方法は想、考察は真似るでなく理解が必要。
アアルトの建築から多くを学ばせて頂いた。
今は学んだ事も含め、自分の光を求めて設計をしている。
その成果の一つが、この写真を送って下さったオーナー宅。


気候風土の違う場所の建築、同じ光はそもそも手に入らない。
それを欲しいとも思わない。
設計した建築が、その場に在って、相応しい光を手に入れ
られたのか?それを知るのがオーナーでもある。


しかし、種を明かすという実に興味深い、・・・何というか、
こんな恐怖がこの世にあったのか!と驚く。
と同時に撮ったばかりだろうこんな素敵な写真を送って
頂けることの幸せを心から実感し、感謝をしている。
本当にありがとうございました。