ヘッダー


ヘッダーと言い、これは設備、暖房配管の要のもの。
お寺の庫裡は2階建、1階、2階ともに床暖房を
計画している。非常に手狭に計画する事となり、
よって、閉じた○○LDKという具合ではプランが
出来ない規模である事から、オープンな空間を
家具で仕切る様に設えている。


規模が許されれば○○LDKとし、各室を大きくし、
その各室を個別に暖房する形式は出来る。一般的な
住宅はそれが選択肢となるだろうと思う。
但し、仕切れば用意にプライバシーを確保できる
ものの、個々には小さな空間となり、その集合が
「家」であるなら、何か個々が切り取られる寂しさを
感じてしまう。出来れば、それが家であればもちろん、
建築空間の全体に一体感を持たせたい。


規模の難しくなった庫裡は、必要面積は確保しつつ、
個々のスペースは最小でもあり、よって、オープンに
繋げ空間のヴォリュームを確保する計画を選択した。
吹抜けや勾配屋根を活かした天井設えと、天井高さの
ある空間でもあり、一般的なパネルヒーター等では
室内高低差から寒暖差を生じかねない。
採用したのは床暖房。


遠赤という熱を波で伝える暖房設備なのだけれど、
FFストーブのような、空気を温める暖房とは
根本的に暖房の方式、考え方が異なっている。


集中暖房とかセントラルヒーターと呼ばれる
端末はパネルヒーターがメインとなるだろう。
その器具は面から放熱する熱が空気ではなく
波として熱を建築躯体へ配る事が出来る他、
その器具を濾して熱を空気に伝え対流も利用する。


対して床暖房は圧倒的に放熱面が大きい。熱は、
その面積に応じて伝える事が出来る。
パネルヒーターは集約した小面積に比較的高温の
温水を流し空間に熱を放熱しつつ、空気も温める。
床暖房は圧倒的な面積故に低温でゆるりと熱を
放出する。放出する熱は空気ではなく波となり、
床はもちろん、壁や天井を暖めてゆく。


FFストーブは空気を温める。効率的に温められた
空気が人に接し、暖を感じさせてくれるのだけれど、
空気は温められると軽くなり、上昇してしまう。
故に床面が相対的に冷えてもいて、快適に至らない。


パネルヒーターは対して熱を遠赤という波で
エネルギーを伝え、空気ではなく建築の室内の、
冷えるだろう部分を温め、室内の寒さを除く。
床暖房は空気を温める事よりも、その室内の
寒さ・・・熱を奪う部分を効果的に温める事で、
室内から寒さを取り除く事に有効な暖房と考える。


実際、暖かさの質は全く異なる。


最良は寒さのある家の中での薪ストーブかな。
あれは代え難い暖かさがある。例え背中が寒くとも、
当たる火の暖は格別だ。ただ、気密された現代の
住宅では工夫は必要、それに燃料となる薪も必要。
床暖房は放熱面の広さから、必要な熱量を低温で
付与する事が出来る。この床暖かい!と言うのとも
違う。おそらく、何が暖かいのか気が付かせない。
もしも電気代が安価なら、電熱線を天井に仕組ませ、
天井暖房も在り得る。壁を放熱面にする事も出来る。


ここでは熱源は灯油。ボイラーを設けお湯を作り、
これを室内床面に配管して流し、熱を伝播する。


吹抜けや高い天井の空間では、暖められた空気は
高所に流れ人の佇む低地には留まらない。けれど、
建物そのものが温められ、寒い箇所が取り除けると、
人は寒さを感じずに居られる、そういう暖房設備。


・・・の、要となるのが写真上のヘッダーとなる。
幾つもの回路があり、この複雑そうな機器から湯が
室内を巡る事になる。


機械設備には、非常に苦労をさせた。
断面の計画は実に切り詰め求めている事もあり、
懐のスペースは最小限で本当に苦労を強いた。


その苦労を見て現場代理人が、天井高さを下げるか?
と話した事があるらしい。「今更!」との答えだった
そうで、私がこの場で、やれば出来るね!と言えば、
機械設備職人は皆一斉に・・・笑っては居た。


お寺と庫裡、そのバランスを考えると、その余裕を
選択すれば直ぐに肥大化する方向に進む。出来る
だろうギリギリを探り、全体の、又は室内の空間の
プロポーションを研ぎ得た建築、労を求める結果と
なり申し訳なかったのだけれど、本当に良く理解を
して下さり、難しい隙間を縫って解を見出し、
その狭い隙間に効率的に納めえくれた。


定例の分科会では設備業者とは相当に悩みつつ
打合せを繰り返した成果、現場では当然の苦労を
当然の如く仕上てくれている。その成果の一端は
この写真から見て取る事が出来る。


悩んでくれた結果、仕上げで塞がれる前の状況を
眺めると、本当に綺麗に無事に出来上がっていて、
流石だと感謝しています。


写真には換気設備のダクトも写っている。これも、
散々悩んで得た解等。設計時よりも現実的で
効果的に発展出来た上に、見事に施工されている。


もちろん、経験的に出来る事を予想し設計は
しているものの、こう現実を目の当たりすれば、
次の機会もこれで・・・等と考えたりもするし、
無理を言える範囲、不可能な事の境を知る
貴重な機会と出来ている。



ライニングと言い、給水や給湯の立ち上がりのある
庫裡の居住スペースの水廻り、ユーティリティー
それも、良く整理され最小限のスペースで築かれる。


この現場の機械設備業者、その担当者は優れた方、
よくよく意図を汲み配慮し、現場に指示下さり、
そして現場の職人は良く応え、施工頂けている。


恵まれたのだと実感する光景が、監理の際の
現場でつぶさに見て実感させられる。在り難い。