第三十一漁福丸
老舗模型店を訪ねる。
天井まで高く積まれたプラモデルの箱。そのラック周囲の通路にも
腰の高さまで箱が積み上げられ、通路はすれ違うどころか、振り向く
ことすらためらわれる狭さだ。だが、それが良いのかも。
どこに何があるのか? 興奮を覚える。
建築模型を作るとき、しばしばこのような模型店を使うことがある。
当時、東京のハンズかレモンで手に入れたような細いピアノ線等が
この店内の端に並んでいた、そんな品揃えの豊富な古い模型店だ。
長きに渡り、様々な商品変遷があったのだろう。過去のその痕跡が
積み上げられた箱や置かれている場所などに残るようだ。路地裏の
小道に古の情景を思い浮かべるのに似て、テクストのある街並みの
ような、そのスケールの大きさが興奮をそそるのかもしれない。
私自身の用事ではなかったのだけれど、しばし楽しく過ごす。
ふと、足元の一団を観察してみると・・・
ここは車類のコーナー。見えている一台はフェラーリだ。しかも、
”made in ITALY”製!。これはただ事成らぬ一台なのではないか?
と、これと並んで横には唯の漁船がある。頭によぎる「?」マーク。
「 第三十一漁福丸 」おまけに”NEW”とある。
荒海に漕ぎ出す男の仕事場、その勇ましさ、逞しさ、誇らしさ。
イタリア製のフェラーリと比べても引きをとらぬ、超越した存在。
どうして今まで身近にあるだろう漁船がモデルとならなかったのか。
ドイツには”siku”というミニカーメーカーがある。ポルシェのような
スポーツカーからゴルフのような大衆車までがそろうドイツのトミカだ。
このメーカーの特筆すべきは、実はトラクターのコレクションにある。
ドイツの子供達はスポーツカーでチンタラ遊んだりはしない。トラクターで
遊ぶのだ。様々なスケールのトラクターは農耕機械類のオプションが揃い、
耕し、植え、刈るまでが存分に楽しめる充実具合だ。
そう考えると、島国日本の子供達が漁船で遊ばない謂れはない。
漁具や魚網のコレクションが揃うなら、その拡張性は農業に劣らず、
想像性に富んだ遊びとなるだろう。間違いない。
農業国、ドイツの子供達が農業で遊ぶなら、
島国日本の子供達は漁業であそぶのさ。
とは、思ってみたものの、やはり少しマニアック過ぎるのかもしれない。
身近で在るハズなのだけれど、漁とはどのような仕事なのか?私も良く
見たことがない。遊ぶだけ十分なリアリティーが欠けている。
室蘭の水族館で泳いでいるホッケを見たことがなければ、今でも開いた
姿しか想像できないだろうし。そういえば、ニシンやシシャモも居たような。
そういう日常のリアリティーは、遊ぶ上でも想像の基本にあるのだろうか。
この箱の一団、アポロ月面着陸船や宇宙ステーションへの無人補給船等
かなりマニアックなものが並んでいる。知人に聞くとこの漁船も含めて
「アオシマ」というメーカーのものらしい。HPも眺めると確かに凄かった。
団地のプラモデルまで今はあるらしい。恐れ入った。
この漁船はマグロの一本釣り名人漁師、山崎倉氏の舟だそうです。
とことんまじめに1/64スケールモデルとして再現しました!と。