椅子、その1


自分のパースによく登場させる椅子がある。
ミースのバルセロナ・チェア(左にある椅子)。


初めて興味を抱いた椅子がこれだった。
知った時、既に半世紀以上を経ていて、
知ってから既に四半世紀を経ていて、
未だ古びず、この先もおそらく素敵な椅子。


大柄な椅子なので、これが二脚も納まれば、
大抵のソファーを設置できる十分スペース。
小ぶりな家具で部屋を広く見せる方が、
或いは、広く良い印象が得られるかもしれない。
けれど、やはり、こちらの方がいい。


ミース・ファン・デル・ローエとは、
20世紀を代表する建築家3巨匠の一人。
彼のこの椅子はバルセロナ・パヴィリオンの
ためにデザインされた。


学生の頃、何故かミースに興味を抱き、
彼のエスキース集が素敵で、確信へと変わる。
今は売られていないあの古い本、今でも母校の
図書館にあるのだろうか?・・・欲しい。


その本の中にこの椅子が出ている。
コピーを製図台に貼り、トレースしたことがある。
実物は寸法調整がされているものと思うけれど、
そのエスキースを頼りに自分が記憶しているのは、
この挿絵・・・改めてCADで作図をしてみた。


幾何学構成、無駄のない洗練されたデザイン。
当時、これを目の当たりにし歓喜した記憶は
今も鮮明。最も謎だったのは、これが果たして
心地良い椅子なのか?であった。


こんな白黒の写真を貼ると、何時の人?と
思われそうだけれど・・・フィルム時代は
好んで白黒写真を撮っていた。カメラの事は
また改めて書きたい。


写真はバルセロナにある復元されたパヴィリオン。
ヨーロッパに行った際、特に見たいと願った建築。
椅子と同じで無駄のない洗練された、正にモダン。
最も、パヴィリオンなので機能がなく、純粋に
建築のみという、まるでお墓のような建築である。


ディ・スティル的な、水平と垂直の構成、
鉄とガラスの建物、壁はトラバーチンの石。
モデルニスオの建築溢れる、陽の高いバルセロナ
そこで出会った建築はあまりに空虚で驚く。


ミースは元々、ドイツの表現派と呼ばれる
おどろおどろしいスタイルがらスタートした
ように思う。ドイツは面白くて、そのような
精神性を大切にしつつ、工業化も逸早く。
鉄やガラスという前世紀に登場した素材への
探求も成されていた。

自分の感覚では、ミースは、表現派の持つ
伝統的な精神性を忘れることのない人だった。
彼のスタイルは、表現派的な複雑な造詣から、
ガラスの箱、宇宙(ユニバーサル)な建築空間
へと一筋に洗練される中で、象徴的に鉄と
ガラスという素材を用いていたように思う。


求められた『空』の空間は、ユニバーサル
スペースと呼ばれる純粋空間。昨今耳にする
ユニバーサル・デザインとやや違うだろうか。
別次元の世界がある。


この建築の中にあの椅子が置かれている。
訪ねた時はあまり人も居ず、自由に座れた。
気の済むまで座った記憶がある。


一人で座るには幅広く、カップルなら丁度良い?
足を組み、椅子の背に腕を載せ、威張るように
寛いで座ると丁度良いという不思議な椅子は、
実際とても心地良く、改めてデザインとは?
と思い知る。


パースに落とすという事は、初心をという
意味もあるのだろうかと今、気付く。