【 Moai in ny Story vol.1 】 初めに。


クライアントに初めてお会いしたのは2015年の初春の頃の事。
お聞きした要望には正直、絶句したかも。
予算をお聞きし、ざっと坪単価を想定して割り返し建築規模を確認、スケッチをその場で起こしてみると、
非常にタイトな建築ではあるけれど、クライアントの気持ちが伴えば、建築は可能ではないか?と思えた。
思えたのだけれどやはり、とても難しいというのが率直な意見、私は首を縦に降った覚えはなかった。
ではあるのだけれど、「断られなかった」と言う。それが【 MoAi in ny 】の最初の一歩となった。


クライアントは私とお会いする前に既に、様々を良く勉強されている方だった。
予算を考えると、建売住宅が規模も適うものと分るものの、質にこだわりたいという思いは強く、
実現できる方法を模索し、応えてくれるだろう建築家を探し、私と出会う事となる。


最初に描いたこのスケッチには、それほど大きな意味はないものの、その後を考えると興味深い。
ニ世帯住宅をかなり極限の規模で達成させなければならない設計、スケッチにより必要なスペースが
確保できるかどうかの判断がついていた。その意味で実現の可能性が感じられた。


二世帯住宅は、キッチンや浴室等の水廻りを2セット用意するのか共用できるのか、その区分共有は様々が考えられ、
フルに2セット用意となれば予算に大きく響き、共用する場合は調整には時間のかかる事が容易に想像でき、何より
予算は非常に厳しく、見積もりの調整が可能かどうかの不安も付きまとうものだった。


ちょうどその頃に仙台近郊の住宅が着工したのだけれど、見積もりがあわず業者の選定に苦労し、
遠方で図面を抱えて流浪するという切ない経験をしていた事もあり、殊更、敏感だったと思う。
でも不思議とクライアントが懸命であるなら、出来る気がする。


最初のスケッチで可能性は確認が出来た。後は、計画を受けるのかどうか?
「断られなかった」と真剣に見つめられてしまうと、応えないわけには行かないと心を決めた気がする。
今は笑ってお話が出来るのだけれど、「断られなかった」というのは「断る」方に近いよなーとは思う。


自分は設計の際、クライアントの熱意に動かされる事は多い。やはり建築の切欠はそこにあり、
その熱意をどう具現にするのかが私の務め、設計の業務。求められれば応えないわけには行かない。