【 Moai in ny Story vol.3 】 現地調査

調査は『要望聞き取りインタヴュー』と『敷地現地確認』の二本立てで帯広を訪ねる。
『敷地』は既に公図で確認済みだったものの、現実は想像以上に幅が狭く、悩んだ。
敷地の特性を活かし、可能性を・・・というよりも、そもそも、本当に計画できるのか!?
実に挑戦的な敷地であった。この敷地を見て覚悟が決まったのかもしれないと今は思う。


訪ねたのは、庭先の謂れある桜の木の花が散り、サクランボの実が実り始めた春遅くの頃。

事前に手紙にてお聞きしたい事を伝えていた。クライアントからは丁寧な手紙が届き、
様々が記されていて、読み返すと、達成出来た事、出来てはいない事など多々ある。


クライアントにお会いする事、敷地を確認する事、それは私自身が理解をする事を目的にしている。
クライアントを理解し、敷地を理解できれば間違いがないはず。では理解をどう深めるのか?
明確な方法など無い。それが敷地なら感じるまで眺め過ごし、それが人の場合は色々な事を様々話し過ごす。
・・・雑談?・・・確かに雑談かも?設計にはおおよそ関係ないあれこれまでお聞きしたりして過ごす。
お聞きした事はどれも印象深く、設計の際はしばしば脳裏に過ぎり、そこかしこに表出できたならと思う。


一般には4LDKでリビングは12帖、寝室は8帖・・・という直接的な要望をお聞きするのかもしれない。
四角い箱を組み合わせる簡易な方法は平面的でとても良く分り易い。
けれど、面積上の広さと空間の広さには相違があり、それは竣工写真を眺めても明らかではと思う。
これは実際に体感頂ければ容易に実感が出来る。平面は頭で考え、空間は体で感じるものという具合だろうか。
この住宅は子供スペースを、個室はLOFTとしオープンスペースを併設して設けている。
単純に子供用洋室×2という一般的な構成とはせず、しかし十分ではないかと思う。こういう考え方も在る。
プランは柔軟に取り組むべきもの、建物断面も含め、様々に検討し可能性を探り、最大限の効果を得るには、
要望を安易に導かず、直ぐには答えにならぬ希望を引き出せばこそ価値があると考える。


という事で、印象や好み、趣味趣向、包み隠さぬ日常など様々をお聞きし、また、ご自宅を見せて頂き過ごす。
この日は結局、クライアント奥様の部屋は最後まで見せては頂けなかったなー、散らかっているからと。
照れたり恥ずかしがられると、私まで照れてしまう。そうすると仕事にならん。
※要望があれば別ですが、念のために記すとタンスの中までは確認しません。


実際の生活風景には迫力があり、その迫力を私の身に覚えさせておきたい。
特にお持ちのものの量、そして雰囲気、印象、傾向、様々を観察させて頂き、私自身の要望と出来るよう理解を深めたい。
我が身の如く、こう在りたい!というところまで想像を膨らませる事が出来れば、
計画はスムーズとなり、そうして初めて具体的な提案が出来るものと思う。


家具や家電の類も見せて頂き、持って行くもの、行かぬものも確認をして行く。
または新築時に用意したい家具があればお聞かせ頂くなどして、配置や置き場所を考えておくべきは
この時から想像するように取り組む。
おのおの細々様々在るものの謂れをお尋ねし聞かせて頂きつつ、新築時の生活風景を思い描けるまで粘る。



打ち合わせでは終始寡黙なクライアント御主人の趣味のもの、プラバシー少しお借りして写真を貼る。
中央に居るのは、後に1年弱だろうか、私のアトリエを訪ね滞在したモアイが写っていた。
語らずとも見せて頂くと、私なりに思う事が生まれ、感じる事もあり、創造の糸口だったのかもしれない。


このモアイをお借りしたのは、それでも想像が十分に出来ず、身近に居れば気持ちが理解できるのでは?
と思い立ったからでもあった。貸し出す際に御主人が選んでくれたのがこのモアイだった。
出会いに縁があったのかもしれない。写真の部屋、なかなか痺れる居心地在る空間になるほどと感じ入りつつ。


既に無いこの部屋が今、引越しし始まった新しい生活空間の中でどう組み上げられているのか?
次回訪ねた時には確認させて頂きたい。秘蔵のモアイもあるとお聞きしているが、見せて貰ってはいないなー




ちなみに、事前に手紙で伺った事はおおよそ、直接的に建築に結びつく事でもない。いや、全くないのかも?
好きなテレビ番組、映画、音楽、本・・・晩酌の有無、飲むのは何?
来客は多いか少ないか、BBQやキャンプなどのアウトドアは?休日の過ごし方は?
ある日の一日の家族の行動を詳細にお聞かせ頂いたり、という具合。
鍵をどこに置くか、携帯電話はどこで充電するか等は直接的なヒントにはなるのですが。



お聞きする事は、その一つ一つに理由もお尋ねさせて頂く。無意識もあれば、考えあっての事もある。
これを機会にクライアント自身も考える機会になるのかもしれない。


敷地には親の住まう住宅が在った。これを取り壊し建替えを計画する。
2世帯住宅の計画、既存住宅をリフォームのベースとするには規模が違い、また既に古くもあった。
結果、敷地を同じにする、広義にはリフォームに違いなく、建築は新築にて計画をはじめる。