設計経過。(工務店の決定など)  ■S-house vol.8

工務店の決定は、多くの場合、実施設計を終え、見積もり後に
なるものと思う。大抵は数社に見積もりを依頼し、内容を精査、
より信頼できる一社を選ぶこととなる。


見積書を眺めると、施工者の建築・図面への理解や技術レベル、
それに信頼など、多くのことを読み取ることができる。


事細かく拾う見積書は好感のある反面、項目の多い分、コストは増す
傾向にある。対して項目が少なく整理され、数量、単価の組み合わせ
がバランスされたものは、巧みさを読み解くことが出来るかもしれない。


通常10日〜2週間という短い期間での製作される見積書は、施工者の
技術が如実に現れるものだと実感している。


初めての工務店との仕事は悩むことが多い。特にS-Houseでは、
前述のような経緯を踏むこともなく、相手を知る機会がないことから、
どこまで要望できるのかも全く掴めない状況でった。


予算面では、既に決定している工務店が強いという状況が確定しても
いるので、尚のこと厳しい設計環境であることも想像されていた。故に、
計画段階から「概算」を依頼し、様子を見ながらの設計となった。


実のところ、この段階では設計者と施工者は互いに様子見をしている。
設計者は、この施工者はどこまで造ってくれるだろうか?と観察し、
施工者は、この設計者は無茶を言ったりしないだろうか?と観察する。


決して、幸運な設計環境ではなかったものと思う。そういう歪がプランに
残ることは否めない。敷地見学で描いてきたような自由なプランに対し、
最初に描いたものは、非常に無難なものに過ぎなかった。


クライアントの要望を先ず満たせる内容であること。そして、それが
予算内であること。この2つを優先することが、実現への道であると
理解し、設計を進めていた。設計を請ける覚悟の通りでもあった。


ただ、その案で納得できるのか?このことに大きく悩まされていた。
既製品をベースとする条件も、自由な計画をより難しくもしていた。


予算という大きな制約のもと、クライアント自身が実現を第一と考え、
住まうイメージを膨らませることに躊躇されている姿がより悩ましかった。


そのような経緯の中、ある程度の目処が見えた頃に、別案ではなく、
発展プランとして、幾つかの提案を試みることとなる。


なんと当初は2つもあった6畳の子供室は、オープンスペースや吹抜と
組合せ、リビング−ダイニング−キッチンの構成もよりオープンなものを
提案している。その経過毎に概算を依頼しつつ、成長を試みてゆく。


一度得た建築出来るプランでイメージをされていたクライアント、少し
迷われたかもしれない。けれど、この機会こそ、悩む最後のチャンスでも
あり、設計の出来る限りを試みようと考えた。


出来たあとで、「あの時・・・」と思わせることは最も避けたいことなので。


数度の提案、いつしか、序所にイメージが膨らむようになり、クライアント
家族の意見もまとまり始める様が伝わるようになっていた。


「家を建てたい」と相談をされた時以来、ずっと一緒に考えてきたのだし、
竣工後、数十年後にも楽しく会えるような住まいであって欲しいと願う。


幾多の変遷の末、この設計への取り組みを施工者に理解頂き、好意的で
誠実な見積もりを頂くことが出来たことも、とても大きな展開であったと思う。


予算と規模を確認する上でも当初の無難なプランは必要なものであった。
そこから発展成長したプランは、要望を素直にカタチにする計画とは少し
異なるかもしれないのだけれど、一つの成果に至れたのではと思う。