ILFORD 



イルフォードのフィルムは柔らかくてイイ ・ ・ ・ などと語れるほど写真が詳しいわけではない。
そもそもは訪ねた建築を撮るため、必要に迫られてカメラを覚え始める。
欧州を巡った時は暗いズームレンズ一本とNIKONのマニュアル一眼レフカメラを持って旅する。






先日、知人からフィルムスキャナーをお借りした。
案外、綺麗にスキャンが出来るので夜な夜な夢中になりそう。一コマ一コマのスキャンはあまりに面倒!
それに何といってもホコリの多さに滅入る。デジタル化の恩恵はホコリからの開放なのだと思う。


そもそも、綺麗に写そうという覚悟はなく、自分の見たものが記録されていることをカメラには求めた。
それでも撮っている時は素晴らしい写真を撮っているつもりなので、出来栄えの悪さには驚かされる。


何を撮ったのか判別の難しい細かな写真も多い。もちろん多くは自分の見た記憶と合致するもので、
改めて自分が何を見てきたのかを再確認出来る、初心を思い出す新鮮な機会となっている。
旅で撮ったフィルムは100本くらいだろうか。先の長そうなスキャン作業、気長に進めてみたい。






旅先では直ぐに撮影枚数に歯止めが利かなくなり、相当量のフィルムを消費することになった。
フジやコダックは高価なので、専ら「ILFORD」という安価なフィルムを現地調達することになる。
最も多く使ったのがILFORDのISO感度400の白黒フィルム。室内撮影も多く、高感度は必須だった。


何時の頃からか白黒フィルムを使っていた。自分で現像はしないので使うメリットは乏しいのだけれど。
「光」が実に素直に写るのがいい。色はなく写真情報は少ないのだけれど、故に光、その陰影が鮮烈だ。


後年、写真館の友人に山のようなILFORDのそのフィルムを見せた時、「拘りがありますね!」と言われる。
「何か質感が好きなんだよね。」とか誤魔化しつつ、告白までには少々時間がかかった。
本当は「一番安価だったから!」が理由だし。

(日本では高価。ILFORDの印画紙は柔らかさが特徴らしい。彼はそれを使い数多くの写真賞を受賞している。)






添付の写真はフランスの田舎町の山頂にある建築史上最も有名な建築の一つ、ロンシャンの教会。
爽快な青空の下で出会う予定だったのだけれど、曇りの日の午後に到着する。


写真は帰り際に撮った一群の中の一枚。日は落ち、辺りは暗く、周囲は霧が立ち込めていた。
巨大なヴォリュームが霧の中に、そーと消え行く瞬間を撮ったもの。とても気に入っている。


街灯などなく、人も居ない。日没後の濃霧の中、見知らぬ国の田舎の山頂で一人写す。
薄暗く視界も利かない帰りの山道、何かを覚悟するには十分だったかも。それなりに無茶であった。
ここを訪ねるも、去るも、長ーい物語があるのだけれど、それはまた別の機会に記したい。






久しぶりに触るフィルムは新鮮な感覚。光を版として残す、デジタルの世界にはない現物そのもの。
光に透かし覗いても反転したネガの世界があるのみ。そこに光を当てて拾うとパソコン上に映像が蘇る。






その霧の中で描いたスケッチも一枚。

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