ロートアイアン 【少々加筆】


建築工事において、特に高価な項目がある。
例えば家具工事がそうで、減額調整の際には、
真っ先にその対象となる。
金物工事、これもその筆頭に上がるだろう。


高価なのには訳がある。人の手間が掛かるからだ。
昨年竣工した佛願寺でも金物は最後まで思案したし、
打ち合わせの緻密さも、以前に載せたスケッチの通り。


木などに比べると断面寸法は非常に小さく、硬い。
図面は建築というよりも、機械図面のようであり、
原寸を確認しながら考え、作ってゆく。




今進めている幾つかのプロジェクトでは
ロートアイアンを検討している。


木造建築、住宅では人と接する部分に適度な温もりを
デザイン出来るものの、RC(鉄筋コンクリート)造の
建築では、ともすればクール過ぎるきらいがある。


なんとか恒常に耐える、温もりある素材はないものか?
探していた。ロートアイアンは実際、造れる人も限られる。
出合ったS社も、具体的にどうして良いものか思案していた。
高価な上にどう使うのか?提案出来ず、し難いものでもある。


実のところ、自分も初めて使うこととなる。
故に、慎重に検討を重ねることとなった。


S社の担当E氏は、密かに怒っているかもしれない。
アイディアを出す度にどう造るかを相談し、概算見積もりを
依頼する頻度たるや、彼の仕事を増やせるだけ増やしたね。


なにせ、高価な代物だけに本工事見積書に残すのは至難だ。
しかし、この存在を大切にしたデザインを施してもいた。
誰にも文句を言わせないだけの質実を求めて。


既に2つのプロジェクトで採用が確定している。
あとは、具体的な詳細デザインを起こすのみ。


一度、減額調整で弾かれた部位も密かに悩み続け、
出来るだろう方法を練り上げ、採用の方向で動かしている。
E氏には内緒で進めてしまっている!
何とか協力に在りつかねばならない山場が残ってるな・・・






良いものなのだから現物を見せるに限る・・・
そう伝えて造って頂いたというか、造らせてしまったのが、
写真のもの。16mm角の鋼棒を叩いたロートアイアン。


プロジェクト・オーナーの担当者に確認頂いた時、
その担当者がずーとこれを握りながら打ち合わせていた。
その光景、彼にも見せて上げたかった。


木や石、タイル然り。考える時は常に側において耽る。
鉄の硬質感、冷たさ、そして人が熱し叩いた強い痕跡、
これは握り甲斐がある、極めて好きな素材だ。


今回、E氏とは相当にやりやっている。
随分、長々とお付き合い頂いてますし、
実際に造るこれからも相当なことは予想できますし、
次は何なりと対応できるくらいのノウハウは確実に得られるな。


設計者は造る人ではない。造る人に何を造るのかを示す人となる。
この造る人は安請負はせず、良い品質を提供する人ほど優秀だ。
そういう人とどれだけめぐり合えるか?は、設計者、つまり自分次第。


ロートアイアン、一般には門扉など既製品の部類では見られる。
花や草に見立てたものは珍しくはないだろう。
けれど、オリジナルとなれば殆ど滅多に見ることがない。


楽しめる十分な可能性のある建築部位だと確信している素材。
その素性の良さを上手く建築空間に取り込めるよう、
花や何かの造詣ではなく、そのものを楽しめるよう考える。


造られるこれからが本番だ。そこにようやく辿り着いた!






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