光、大きさ、質感・・・その2 

『光』・・・私は特に好きだ。
これに気付いたので設計を志したのだと思う。



例えば南側の光、これはやはり、気持が良い。
写真は『bookshelf』の現場風景、特に印象に
残るシーン。足場が取れ、遮るものなく初めて
室内に光が差し込んだ時の、本当に嬉しい一枚。


この建築は南側外壁の半分が開口部、その高さは
3.6m以上と、とても大きな窓がある。写真は
竣工前の11月午前、陽が室内の奥まで降り注ぐ。




「南側に大きな窓があり、明るいですよ!」と
言えば、多くの方がそう信じるに違いない。
しかしそれは本当だろうか?疑問は残る。


実は、『光』そのものは見えない!! 
では何が明るいのか?光に照らされた対象が
明るく見え、そこに明るさを感じている。
光を視覚化するには様々な方法があり、
窓を南大きく開けるだけで解決はしない。
・・・それで解決なら悩まずに済む。


『光』は必ず『影』を伴う。光が強ければ
強いほど、影はより暗く深くなる。同時に
コントラストの強い空間が生まれてしまう。


余談ではあるけれど、影が出来ぬほど十分に
窓が大きくなれば、それは殆ど温室に等しく、
明るいよりも暑過ぎる環境となるだろうか。




現場写真をもう一度良く眺めると様々が分る。
明るく見えるのは陽に照らされた壁と床等!
照らされた場所以外は暗い影を伴う。明暗の
コントラストの強い室内に見える。


陽射しがたくさん入れば、光の量が多ければ、
=室内は明るい、とは言えない。


一般に良く見られる壁の中央に開けた窓、
陽射しは床のみを照し、周囲は暗い影となる。
(写真の明るい壁が無い状態になるので。)
床の一部だけが強烈に明るく、室内はむしろ
薄暗く。そういう窓の建物が実はとても多い。


プライバシーを考慮せず南側に大きな窓を設け、
外から視線を防ぐようレースのカーテンを閉め、
結果、明るいのはカーテンのみ。陽射が室内に
届くことはなく、気持の上では明るいけれど、
実際は薄暗い室内というのが実情ではと思う。


私の設計は光を大切に考える。明るさを必要と
する空間では、例えば現場写真の奥の壁のように、
『光の映える壁』を考えることがある。
映えるに適した塗壁を採用したい壁。
『bookshelf』では特に塗のコテムラ(凸凹)が、
陽射しで影を作らず輝くようコテを運び塗っている。


職人さんと一緒に幾つも試し塗りし、コテムラの
表情を確かめ、最も良いものを選び指示をする。


・・・そんな想い、労、施主の理解、職人の協力、
得られた『綺麗な光』、それを初めて実感する
瞬間だったので特に印象に残っている一枚です。




更なる工夫もある。影が出来るのは防ぎようがない。
しかし、この影を許せば室内は薄暗くなってしまう。
明暗のコントラストを和らげ、室内が十分に明るさを
得られるように工夫する事も設計では欠かせない。


南の日射は印象的な空間を作るのには適するものの、
健やかな住宅空間を考えると、穏やかさ柔らかさが
足りなくなる傾向にある。



『bookshelf』はドマに面して在る2階の一室。
南側の窓は低く、直射日光の入らぬ場所となる。
陽射しのある1階の快活なLDK空間とは異なり、
プライベート空間が集まる2階には、落ち着いた
光の空間となよう考え、創られている。


この写真の明るさ、陽射しは庭の芝、冬は雪面に
反射して南側窓の下方から差し込み、勾配天井を
明るく照らすことで、室内の明るさ感を得ている。
と同時に重要な採光窓がもう一つ、下写真となる。



北側のハイサイドライト(高窓)は特に有効な窓。
陽が昇った瞬間から、日没寸前まで、空の明るさ
=『天空光』を取り込むのに最も適した窓である。


穏やかで確実、効率的な採光はこの窓に叶わない。
(画家のアトリエは高窓に限るだろうか。)
南側窓の直射日光に採光を頼れば、曇ると失われる。
陽の向きや高さで増減が激しく安定もしない。


更にポイントは、影の出来る隅を無くするように
採光を計画すること。明るさ感を作る壁、床、天井の
あるこの住宅、住まいが健やかであるよう、様々な
採光技術を駆使した成果。


一枚目の写真、カメラではコントラストの強い写真に
写っているものの、実際は影の部分は配慮されている。


・・・そんな様々な光が室内で調和することを初めて
確認出来き、心地良さを実感できた、嬉しい一枚。