10年、20年、30年。 ふと思い、記します。

住宅設計の際はいつも、10年単位での変化を考え、取り組むよう心掛けている。
幼い子供のいる家族なら、最初の10年は家族一緒、次の10年は思春期の子供達、でも、次の10年には家に居ないはず。
30年後は夫婦二人の生活が基本となるだろうか。二世帯住宅の場合、子供が戻ってくる場合などケースは様々あるのだけれど、何れの場合も想像しておきたい。

子供の成長を考えると個室が必要となる時期は意外と短い。10年単位で考えるなら、ある10年程度の期間に限定出来るだろうと思う。その間に個室化できる準備があれば足り、その間以外に対応できるものである必要がある。新築後20年目には使われなくなり、30年後には余剰でしかなくなている家は少なくないだろう。時に将来は減築という手段も含め、或いは床を無くして吹抜けの空間とする・・・子供が戻ってきての二世帯住宅化など、住宅の住まわれ方に合わせた変化の可能性を残したい。

店舗のような短命を前提としたもの、用途の変わらぬものなら別の価値があるものの、住宅はおおよそ10年毎に何かしらの生活変化が想像できる。建築がその時折の生活に合わせた変化へ対応出来る事は欠かせない。


設備機器類はどうだろう? 熱源となるボイラーなど、それがガスや灯油を使う場合は燃焼部分に寿命があり、10年〜20年の間に更新が必要となるだろう。キッチンや浴室は破損がなければ支障はないものの、ガス台や食洗機のような機器類は更新が必要になる。基礎断熱を採用する昨今、屋内の配管はステンレス管を用いるので腐食の心配はなく、経年劣化の具合はあるものの寿命は長く設定が出来る。


外装はどうだろうか? 一般的な住宅に用いられている窯業系の外壁材は、強固で防火性能もあり、デザイン性もあるものの凍害には弱い。表層は塗装で、小口はシールにより止水し状態を維持する。その塗装やシール材は10年までの耐用性はなく、よって痛む前にメンテの必要が生じる。10年で必ず痛むわけではないものの、痛んでからでは手の打ちようがなくなり、足場を含む大きな改修工事が必要になってしまう。安価な仕様は、実はメンテナンスを前提としてコスト転換をしている場合がある。

ガルバリウム鋼板というアルミと亜鉛の合金はサビには強いとされる。屋根面は雨水にさらされ陽を浴びることもあり、状況を見て塗装の必要があるだろう。外壁に用いる場合は条件は良く、10年でどうこうには至らぬものの、20年経過となれば健全かどうかの点検は欠かせないだろうか。木を外部に使う場合は塗装のメンテナンスは欠かせない。防腐への対応が出来れば末永く使える材料となる。勾配屋根の際は好んで使うアスファルトシングル材は、表面の砂が雪止め効果もあるのだけれど経年劣化により欠落するものでもあり、30年程度の寿命が想定されているものの、落雪を見込めば更に長く使える。

コンクリートの場合も保護は欠かせない。塗装や含侵性塗布材での保護も考えられるし、外断熱化による躯体保護は最上だろう。タイルの外装であっても、タイルそのものは朽ちずとも接着面の劣化は免れず、マンションなどでは定期検査の対象、メンテナンスの要ともなっている。


使い方や環境条件にも拠るので、一概には断定できないものの10年は一つの目安となるサイクルであると思う。


では30年後はどうだろうか? 気がかりなのは住宅の省エネ性能となるのだろう。今はまだ高価な仕様もその時には、こなれた価格に至るものと思う。想定する一つは性能の更新改修。外装材を撤去し、躯体木部の健全性を確認の上で下地を設け、断熱材の足し増し施工をする。同時に外部サッシも交換とする。今は高価な高性能製品も、普及するであろう将来は適当な価格帯にあるものと思う。
昨今普及する例えばエコジョーズのような熱源機器は30年後には更に向上製品に置き換わっているはず。配管類はそのまま使えるので、熱源の置き換え工事で性能更新が可能になるものと思う。性能更新には多額のコストを生じる事となるものの、次の世代を不足なく住まう上では欠かせぬものでもある。
先んじて先進的な取組みを試みる事も選択肢なのだけれど、各部の耐用とコストバランスを考え、将来の対応可能な選択肢もバランス良いものと思う。

電気だけは予想が出来ない。今や新築時にアンテナを立てるかどうかも選択肢となっている。光回線やケーブルがあればアンテナは不要となる今、LANの有線配線を考えたのも束の間、無線LANが普及し、電話は既に携帯電話に置き換わり済んでいる実情もある。ここ数年の住宅設計では電話の設置位置に悩まなかったのは設置がなかったらであった。もう、FAXもない。
30年後にコンセントや照明のスイッチが無くなっていても不思議はないのかもしれない。テレビは紙のようなものか高性能なプロジェクターのようなものとなり、有線の必要もなく、そのもの自体が無くなっているのかもしれないし・・・キリがないや。


建替えのお話をお聞きする時、寒さ等を理由にお話される方が多いのだけれど、実際は現状の生活スタイルの変化に建築が追いついてきていない事が本音であるように感じられる。家族の全てに個室を用意した結果、使われない部屋が過半となり、けれど使う部屋はそう大きくはなく、キッチンや浴室も痛みがあり・・・だろうか。

熱源の更新は中期的なもの、機器類の更新は短期的、性能更新は30年程度のサイクルの長期のものとして考える。そして建築本体は住まう人の生活スタイル変化への対応能力が問われる。これが満たされれば住宅建築はクラッシュしてビルトするものではなく、社会資本としてストックが始めて可能となる。

自分は設計の際に、増築・減築・改修を含む将来の可能性も用意出来るよう取り組みたいと考えている。
宅建築は伝統や経験に基づく木造が多勢であり、一般建築物と比較すれば低価格帯にはあるものの、個人にとっては大きな事業となる。
何より、建築時に注ぐエネルギーには代え難い価値がある。これまでの私の経験では、設計は最短でも1年弱の期間を要している。オーナー自身は設計者である私と話すより以前からの、より長い期間を熱意を持って取り組んでいるはず。自分は、自分の携わった建築の取壊されるのを見たいとは思わない。代が替わり住まう人を違えても住まえる可能性を残したい。欲張りな事になるのかもしれないけれど、築いた時の情熱は失うには惜しい価値あるものと思う。その価値がより普遍であるよう先を見据えた設計を心掛けたい・・・ロマンチックだろうか?




ネットのコンペで勝ち取り、実施となった住宅は前事務所時代の仕事であった。コンペのプレゼンテーションから計画、実施、監理まで懸命に取り組んだ住宅、【 bookshelf 】がこの11月に築10年を迎える。建設時から10年の間は想像した賑わいがあり、次の10年では生活に起こる変化は必然、子供達は巣立ちシンプルな生活スタイルとなるだろう。この10年が現実にどう変遷するのかはわからないものの、これからも建築が十分であるのか? 設計成果は実は建築時よりも後年の今、問われることとなる。何とか住まい続けられるのでなく、いつも楽しく住まえる家を設計したい。



何か、夜更けに酔って書いているので盛り上がってしまったかもしれない。