写真を撮って頂く。


春先、東京の写真家に昨年竣工した住宅の写真を撮って頂いた。
先日、出来た写真が届く。やはり、綺麗に写して行くなー
自分で撮る写真も好きなのだけれど、プロの技は説得力が違う。
※スキャンの状態が悪く掲載写真は白飛びしています。


使い慣れたレンズを使い、間違いのないよう光の具合を確認し、
何をどこにどう置けば構図が整うかをパッパッと作り上げて行く。
撮影時は雑用を申し付かったのだけれど、汗だくであった。


昨年は仙台近郊で設計した住宅を撮っていただいている。
フィルムで撮られたもの、デジタルとは違うのか、
そもそも腕が違うのか、その両方だろう。面白い。



その広告物ように断面のパースをまとめた。
400文字程の文章も用意する。
27坪の二世帯住宅、非常にコンパクトな設計だ。
省エネ的観点で、という事だったので、
パースには通風や採光について図示をしている。
本当は、あちこちの窓を開け試して頂ければ、
十勝の夏なら乗り切れるはずだ!とは思うものの、
しっかりエアコンは設置しているので、
きっと今頃は・・・快適でしょう。


コンパクトであることは大きなメリットとなる。
ランニング、メンテナンスのコストは当然小さく済む。
熱損失量そのものが小さく、冷暖房も当然有利だ。
高価で高効率な設備を用いて大きな家をどうにかするのは、
実はエコとは呼べないのではと思う。
そもそも規模を縮小出来るなら、それこそエコに違いない。


問題は、コンパクト故の狭小さを感じさせない設計が、
可能などうかではないかと思う。
これが設計では大きな壁となり立ちはだかる!
カメラマンは・・・この方が広く見えるからとか、
アングルを探して小物の配置に思案して頂きましたが。


空間は、奥が明るいほどに広がって行く。
どこかに隈が生じると途端に空間は閉じてしまい、
閉塞感を伴い空間が限定されて果てに縮んでしまう。
物理的に大きな空間でも隈があると閉じてしまい、
小さな空間でも隈を排除できれば広がってしまう。
どう伸びやかに施すか?設計が問われる。


窓を大きくたくさん設けると開放的!等と言う答えは安易。
窓は明る過ぎ、相対的に上下左右の壁は強い影となり、
陰影のコントラストの強い空間は穏やかさを欠き、
心地を失ってしまう。本末転倒でしかない。


どう空間を明るく照らすのか?これを自然光だけで達成させる・・・
物凄くスリリングな設計です。
『 MoAi in ny 』は無理なくこれを達成出来たと思う。

【 MoAi in ny Story vol.29 】 外装工事

外装工事は2016年7月初めの上棟以降、約一ヶ月の間に行われ、8月お盆前に足場は解体された。
その過程を写真で眺め得見と・・・


上棟時の風景はS工務店I氏から頂いた写真。


私が訪ねた時は既に外壁構造用合板が張られていた。


付加断熱の上、外壁板金下地となる耐水石膏ボード施工中。


板金施行がほぼ完了した頃。


足場が外され、外観が現れる!



外壁を固定するのに使用したビスはI氏が探してくれたもの。
塗装されたものはあまり一般的ではなく普及してはいない。
試しに別の現場で板金屋さんに尋ねると「知らないなー」と。
探せば有るもの、誰かが一手間の労を負って頂けると見つかる。


ある日現場でI氏が嬉しそうに「ありましたよ」と見せてくれる。
【 MoAi in ny 】の現場はそういう一手間を惜しまずに取り組んで頂けた。

【 MoAi in ny Story vol.28 】 外壁板金選定

現場には定期的に足を運ぶ。出来具合や図面との整合を確認する。
工事は進捗毎に特異な納まり部分などが明らかとなるので、検討して行く。
仕上工事が随時迫ってくるので、材料の選定作業も同時に進行する。
納期の掛かるものは事前に、基本的には外装工事→内装工事へ進むので、
その順に仕上材を決める事になる。


【 MoAi in ny 】では、例えば床のフロアー材は納期の事もあり、早めに決める必要があった。
故に上棟時には始め得て塗装サンプルを関連する木部も含めて提示している。
工事序盤の大きな選択は外装の板金の選定、クライアントが大いに悩まれるものであった。


先ず、板金の色見本帳より気になる色を選ぶ。事前にパースを提示しているので思う色を選んで頂き、
また私の思う材も候補に添え、大判サンプルの用意を施工者にお願いする。


メタリックな塗装品からグレーのトーンで選んだ候補は4つ。最終的には5つ。
これが何時もながら、なかなか悩ましい。光線の具合で印象が異なって見える。



見える角度、陽射しや陽の高さ、木陰で等条件により、ご覧のような違いとなる。
30cm角ほどのカットサンプルの他、成型した大判も用意を頂けたので、選定は実践的。


雨雲の下で眺めると・・・



現場で西日の入る頃に眺めると・・・



最後はサンプルを実際に建築に宛がい確認をして行く。
この時はS工務店のO氏、I氏も一緒にクライアント御夫妻の5人であれこれと悩み過ごす。
パースを提示してからは1ヶ月以上、サンプルを手にしてから10日余りをお悩み頂き、
上棟時の打合せの場にてクライアントに決定頂いた。時は2016年7月初旬の事。

【 MoAi in ny Story vol.27 】 上棟時検査


と言う事で私が上棟時検査に立ち会った際は既に外壁合板施行も大詰めであった。
その前が基礎工事であったので、立ち上がっている喜びを実感させられる。



大工の棟梁は、私の来る日は当然知っている様子なのだけれど、何というか素直ではなく、
決まって背を向けて実施図面やスケッチを眺めていたなー
特段の挨拶もなく、ここはどうする?これは難題、等々用意されていた質疑をぶつけて下さった。
訪ねた際に見せられる背中がとても印象に残る。


基本的には現場代理人がその全てを事前に現場に伝え検討をされている。
現場では決められない部位は当然、発生するので、それは監理時に多くは現場で打ち合わせをする。
内容によってはクライアントに判断を頂く事柄もあり、意図せぬ工事とならぬよう注意し、
工事関係者のコミュニケーションを大切に、良く話すように努める。その方が良い成果を得られる。


大工さんは職人であり、腕があり、応えるべく取り組まれる。私は適切に現場に要望出来るかが問われる。
誰でも出来る平易な納まりなら、勝手に現場は進む。既製品で作られる世の中の殆ど全ての建築現場は、
設計者の意図など関係はなく、こういう仕様ですから!として進んでいる。


コストは掛けられないものの、質を求めて取り組むローコスト住宅では、決まった仕様はなく、
【 MoAi in ny 】でも様々な取り組みをしている。かなり挑戦的なものもあり、打合せは真剣だ。
大工に「それは出来ない。」と言わせぬ対話が必要。
逆に、これは甘いと指摘されれば最良を求めて、その場で実寸スケッチを描き出し相談をする。
なんなら事例写真をタブレットで提示しつつ、あの手この手で現場には示し、要望レベルを伝える。


初めて、実寸大のスケールで空間を体感する瞬間が上棟時。特に外壁の構造用合板も施行されており、
実態が良く分る。自分の創造した空間が、果たして何なのかが徐々に出来上がるのだけれど、その初見。
長さは十分に長い事が理解できた。実際、歩けば遠く、遠くで作業を眺めると距離感を実感出来る。


写真は3人の大工が写る。この後夕方にはクライアントを交え、現場代理人のO氏、I氏の5人で、
正にこのリビングスペースにて打合せをする。


広くはないリビング・ダイニングのスペースは、実は、実面積では10帖程の空間しかない。
極めて変則的な幅の建築でもあり、けれど背は高く長い建築空間が機能するものか?確かめたかった。
この時の打合せでは、この事の実際の空間の確認こそが実は、私にとっては最重要事項であった。


3人の大工が近いところで作業をしても支障のない様子を確かめてみたり、
クライアントとの打合時には、失礼ながら時々スー離れては眺めるを繰り返しつつ過ごした。
大人5人が一所で話し合っていても狭さは感じられず、離れれば明らかに遠くなる事を確認する。


間違いがないと、初めて確認出来た瞬間でもあった。


建築は上棟すれば、次いで外装下地までの工事が順次進行する。
外装の仕上げ工事に際しては仕上材決定の必要があり、大工工事は内装に移るのは目前、
内装工事に用いる仕上材の決定も目前。決定前にはコスト内での選択肢を確認し、
現物サンプルにて、クライアントには確認を頂く。


床材、仕上げ木材について、塗装見本を提示する。木目が目立ち過ぎるという指摘を頂き、
更に塗装の調整を代理人に依頼し、この日の打ち合わせを終える。


そんな現場で過ごした一日、夕暮れ時にキッチン上の、この住宅唯一の西窓からの陽射しを見た。
西日は夏も冬も暑さを伴い、低い太陽は眩しさもあり、私は肯定的には使わないのだけれど、
その低く長い陽射しは実に印象的な空間を作り上げる事もあり、大切にしてもいるのだけれど、
この窓はきっと、印象的な日常を担ってくれると確信できる瞬間だった。




一点追記すると、現場の様を確認すると言う事も監理では大切になる。
設計監理当日故に配慮される事もあるかもしれないけれど、この現場にそれはなく、
いつも、綺麗な状態が保たれていた。上棟から外装下地と一気に突き進む現場にあって、
けれど混乱し雑然となることなく、整然とする現場の光景は実に気持ちよく印象に残る。
施行されたS工務店の意識の高さは抜群だった。


幸運にも私は、これまで施工者には恵まれているものと思っている。
設計に携わった現場は全て印象にあるけれど、汚い現場は一つもない。
作業空間に相応しい環境を作ることの出来る施行者、業者制定では重要な基準になるものと思う。

【 MoAi in ny Story vol.26 】 上棟

約一ヶ月ぶりの、書き溜めてはいないので、気ままな再開。
昨年竣工した帯広の住宅、27坪の2世帯住宅【 MoAi in ny 】の設計過程を案内します。
設計の業務はデザインはもちろんですが、建築規模や予算を取りまとめ方針を定める『計画』、
その計画案を施主の要望、予算、法的整合性のある具体的な図面を製作する『実施設計』、
建築が始まれば、その細部までを含め要望に適う建築を目指すべく取り組む『監理』、
この三つの仕事が設計です。でも、案外内容は未知なもの、一つの住宅を設計事例を通じて、
私の設計の業務を案内したく書き出したのが昨年11月、今月を目処に書き上げたい。



【 MoAi in ny 】の建築本体工事が始まったのは2016年の5月末の事。
墨出という先ずは正確な建築位置出しから始まり、土工事と言う地面を掘る工事を経て、
配筋し、型枠を取り付け、コンクリートを打設までの基礎工事をとり行う。


監理業務では、敷地と建築位置の関係や高さを含め図面の通りかを確かめ、
構造の要となる基礎が図面仕様に相違ない事を確認し、同時に木工事に備えて
プレカット図面のチェックに取り組みつつ、仕上材の確認までを進めていた。


クライアントには現場にて建築位置等を確認頂き、仕上材決定に備えてパースを提示、
施工者と一緒に様々を案内しつつ、確認頂きつつ過ごす。


前回の記事にてプレカットの事は記している。知床の業者が用意された材が運び込まれ、
それは一気に立ち上がる木造骨組み。棟が上がり構造が組み終える時を『上棟』と呼ぶ。
木造はこの時が特に美しい。本当に美しい。私はこの時が特に好きだ。


何が建築を支えているのかが視覚的にも良くわかる。
木造は柔軟な加工が可能でもあり、複雑に対応する事も出来るのだけれど、
私はよりシンプルに組み上げられる様に設計に取り組んでいる。
実施設計ではそれを図示し、プレカットではこれをどう作るのか?が問われ、
整合性を保ちつつ改善出来る所は修正し、問題点があれば解消し、
施工者、この時はS工務店のI氏と長々打ち合わせを重ねて取り組んでいた。



という事で上棟のその時を見たく、現場打合せの予定は密にI氏と相談し予定をしていた。
大工の棟梁が隅付けをして材を加工し刻んでいた頃は随分時間を要していた在来木造は今、
プレカット全盛でもあり、運び込まれた材は、この時は応援の大工の手も借りることもあり、
一気に立ち上がる。屋根は合板を張りルーフィング材による止水、壁も合板施行までを
迅速に行い、風雨から構造を守る事が出来るので、この点はとても望ましい様に思う。


【 MoAi in ny 】は正直、とても小さい上に構造は非常にシンプルでもある。
LOFT構成ではあるものの、それらは構造上は主要ではなく、本体はとても簡明。
私の希望で上棟の姿を拝める日を定めて現場打合せを予定していたのに、工事は先に進み、
・・・現場を訪ねた時は既に合板が張られていた・・・あぁ!


現場としては喜ぶべきで順調と言う事、待つ理由はなく私への褒美もなく素早く進む。





どの建築でもいつも、クライアントは無理をしてでも見て欲しいとお願いをします。
この状態は二度と見ることのない綺麗な姿なので、スケルトンの建築の美しさを実感して欲しい。
上棟時、かつては『餅まき』という慣習があった。私は十数年前のお寺の現場で経験したのが最後。
おそらく昨今は上棟時に建築をクライアントに見て頂く習慣はないように思われる。


打合せ名目は上棟時検査、工事記録写真は必須ではあるけれど、その時に打ち合わせを合わせずとも足る。
けれど、個人的には特に見ておきたいシーンなので懸命に調整するも、いつも苦労する瞬間だ。
無事に工事が進み、一安心できるタイミングでもある。


出来れば青空の下でその姿は見たい。木軸との対比が実に綺麗。その姿、実はクライアントが見て頂けた。
添付の写真はクライアント撮影のもの。本当に良いタイミングで絶対の時を確認頂けた様子です。
それが何より嬉しい。こんな綺麗な写真はなかなか撮る事は出来ません。本当に良かった。




打合せ日の前日、I氏に電話で確認した所、「順調です。」との解答、つまり、工事は先へ進みますと。
私がかなり残念な様子にいたたまれなく感じて下さったらしく、翌朝の打合せ当日早朝、現場が始まる前に
現場でわざわざご自身の一眼レフを構えて何枚も写真を撮り、送って下さった。


まだ朝もやのある頃だろうか、素敵な写真を業務外だろうに、クライアントではなく設計者のために、
用意して下さるとは何と嬉しい配慮だろうか。嬉しくて何度も何度もお礼を次げた記憶が残る。


着工前の、工事序盤で送りつけた詳細スケッチを面倒がらずに、むしろありがたいと言って頂き、
この日までに互いに互いの事の多くを知らずに一つの仕事に没頭してお付き合い頂き、
仕事の中で生まれた必然の関係なのだけれど、互いの責任を果たすべく抜かりはない状況であっても、
私にも心配りをして下さる施工者と出会えた事に感謝しております。


上棟は2016年7月初めの事。




写真一枚目を眺めると、愕然とするほどのシンプルさ。本当にこれで良いのか不安になる程。
写真二枚目は間柱が納まり密実に見える上に足場も立ち上がり・・・それにしても、本当に早かった。

【 MoAi in ny Story vol.25 】 プレカット 【編集中】

今は大工さんが墨付けして刻んで加工して、という昔ながらのスタイルを見る事は殆ど無くなってしまった。
先日、とある現場の小さな木造建築増築で、それがあまりに小さい事もあり現場で加工する事になった。
墨や墨壷、それにボードに描いた伏図、イロハニの通番号など本当に久しぶりに出会い感激してしまった。


現在は「 プレカット 」全盛、工場で木軸構造材を加工してしまう。使うのは主に集成材となる。
大工の手仕事からプレカットへ変遷した理由は様々あるものと思う。棟梁と呼べる職人さんの不足、
工期の短縮、コストの削減、木造構造金物の設置精度の要求など考えられる。
実際、在来工法は木軸が組みあがる「 上棟 」までに相当な時間を要するものなのだけれど、今はとても早い。
パネル工法と変わらぬような早さで組み上がる。大抵は建て込み時に他の大工の応援を借りて一気に建ててしまう。
直ぐに合板を張り、屋根はルーフィング材までを施工するので雨に打たれる事もない。
それに、昨今はプレカット技術者の技術も確かでもあり不足を聞く事もない。


【 MoAi in ny 】はS工務店の使う知床のプレカット業者と聞き、また遠い所から!と驚く。
輸送の手間はあるけれど、これは数時間の差でしかなく、遠方の業者である事は良くある。
実際に加工する前に提出されるのが「プレカット図」。実は案外、設計者は見ない人が多いように思う。
工務店によっては、言わないと出してくれない事もあるし。


プレカット図は木造の施工図と言えるだろう。鉄筋コンクリート造(RC造)の施工図や鉄骨造(S造)の鉄骨加工図に同じ。
契約図を基にして製作される、何を造るのか?どう造るのか?・・・どちらかと言えばプラモデルの組立説明書に近い印象。
必ずチェックをするのだけれど、見慣れぬ図面に最初は何をチャックすれば良いか?結構、時間を要します。


昨年の仙台の住宅では施主がプレカット業者を指定され、施工者は初めての業者となり、プレカット図のチェックは何度だろう?
直接プレカット業者と主体的に打ち合わせる事にもなり、皆が相当な労力を費やす経験があった。
担当者は一生懸命な方で労を惜しまず、最後まで取り組んで下さった・・・その苦労を施主は知らないのだけれどね。


【 MoAi in ny 】では20枚のプレカット図が届く。伏図(構造木軸の平面図)と断面図(壁一枚一枚の軸組図)の施工図。
開口部の高さ関係も含め詳細に記されている。先に描いたディテールのスケッチを元に仕上寸法から、
仕上材の部材寸法や施工クリア確保を考慮したのが構造材の寸法となる。
施工者采配の図面となるのだけれど、S工務店のI氏は確かな方で、私にはすっかり調整済みのチェック図が届く。


ロフト構成その他、実は複雑な断面である【 MoAi in ny 】は合計9つの床レベルがあり、仕上げを考えると10となる。
天井、壁付けの窓が多数ある上に、縦横様々な連窓があり、その方立材と無目材は構造材となるので・・・考えるとパズルだ。
更に水廻りと換気の配管類は狭い所を通していることもあり、かなり難易度の高いプレカット図になってしまう。
・・・一つ一つを確かめて行き、不明点や疑問点を問い、問われしつつチェックをして行く。

こうして木造建築の骨格となる構造が実現すべく準備が整ったのは、配筋検査時の頃の事。




I氏はお会いすればいつも優しく微笑む様な方なのだけれど、仕事に手抜きはなく厳しく取り組んで下さる。
お会いしての余談もホドホドに時間に急かされ、互いに互いが何者かも良く知らずに、互いの要望や技術レベルを知る仲となる。
設計者は施工者に「どこまで求めるのか?」を伝える機会であり、施工者は設計者が「何を求めているのか?」と知る機会となる。
当然ながらS工務店のO氏もこの流れは確認していて漏らさずにある。思えば不思議な関係だ。


設計者と施工者には契約関係はない。施主と施工者との間で取り交わす工事契約書に「監理者」欄があり押印はするのだが。
契約関係はないものの互いに責任を負い果たすべく取り組む関係、それが確かな時の安心感は格別でもある。


竣工写真が綺麗に見えるとすれば、それはこの時の成果がとても大きい。出会って即座に互いの技量を求め合う関係は、
一気に信頼関係にまで及び、厳しい事を言い合うにも関わらず結束を強める事になり、そう出来れば揺るがない。


ディテールのスケッチやプレカット図という、まだ基礎も出来ていない頃に実は、設計者と施工者は鬩ぎ合う。
実施図面や見積書で互いに予測した相手を、実際に直に確かめるのだけれど、ここは互いに技術者故に理解は早い。
自分はクライアントの代弁者として挑み、施工者は建築する者として挑み、調和を目指す。

【 MoAi in ny Story vol.24 】 ディテール・スケッチ 【編集中】

ここで建築において重要な方をもう一人紹介する。それはS工務店のI氏。
実力者ながら奢らず、優しく、応対は丁寧、いつも笑顔、でも仕事は厳しく。


■サッシ廻りの詳細図

■連窓部分の詳細図

■縦断面詳細図(連窓部分含む)

■縦断面詳細図(基礎含む)

■玄関及びポスト廻り詳細図

■サッシ廻り詳細図改訂版


ディテールのスケッチ描き打合せを進めたのは6月初めのことだった。
これは基本詳細となるもの、プレカット前に決めておく必要があるので、短期間に集中して打ち合わた。
窓周りをすっきりとさせたい・・・屋根を薄く仕上たい・・・のような現実の納まり、ディテールは
着工から工事終盤まで取り組むもので、疎かにすると建築の質を落としてしまう。


私は着工前後の早い時期にスケッチを描き、施工者に渡すようにしている。
クライアントの要望を設計者はカタチにし、その意図を施工者へ伝え、理解した施工者は建築をする。
スケッチは意図を伝えるのにとても役立ち、特に手描きは良く伝わるように思える。
現場にあっては大工さん等職人の多くは、手描き図面だと直ぐに理解してくれるような気がします。


「実施設計」図面は見積調整後にその内容を反映した「工事契約図」となる。【 MoAi in ny 】の工事契約図は全37枚。
この図面は見積と整合し、何を造るのかを記すもの、契約の根拠となるもの。
けれど契約図での詳細図の縮尺はせいぜい1/20程度、実寸レベルでのディテール検討は欠かせない。
掲載したスケッチは設計『 監理 』時の重要な仕事になる考えて取り組んでいる。
無理が無く、合理的で、製作可能な、意図を具現するものを先ずは創り上げる作業、これはとても楽しい。
施工者によってはスケッチを面倒がり嫌がる方があるかもしれないが、建築には施工者に理解は欠かせない。


これらのスケッチをI氏に送った後の打合せ、彼の応答は心地の良いものだった。
「ここまで描く人は知りません」と、迷惑ではなくありがたいと言って頂け、私は素直にその言葉を信じました!
この時点でよく話し合い決め事を整理出来れば、現場で迷ったり困ったり滞ったりせずに済む事を思えば、我等は懸命。
建築序盤を支えて下さったI氏とは本当に長い時間を費やし一緒に取り組ませて頂いた。心から感謝しております。




ちなみに掲載ディテールは決定案ではなく検討のための資料。このまま採用したものもあれば、検討を重ね変遷したものもある。
監理時の緊張は伝わるだろうか? 

ディテールどころか、図面すら覚束ない設計者も少なくないとも聞く。
こんなスケッチを読み解き設計者の意図を理解し工事の出来る施工者も限られる。
設計者や施工者を選ぶ時の基準になるに違いないのだけれど、これはなかなか語られないのだろうなー