光 ・ ・ ・ 北欧

空間とは「光、大きさ、質感」から成るものと思う。


自分の設計はこの3つをどう組み立てるのかに沿っている。先の
工事中のBookshelfでは”光”について書いている。人工照明
ならある程度計算は出来るけれど、建築は自然光に挑まなけ
ればならない。それが住宅なら相応しい健やかな光を創るために。


南側に大きな窓を開ければ室内が明るくなる・・・なら悩まずに
済むのだけれど、単純ではないのは先の通り。光は実際に体験
しなければ見えてこない性格でもあり、殊更理解は難しい。


人の生活はその地、その場所にある自然の光に支えられている。
その光、どのような可能性があるのだろうか?私は以前訪ねた
北欧の建築に多くを学ぶ機会があった。フィンランドの巨匠、
アルバ・アアルトは前世紀を代表する建築家だ。既に古典のよう
な存在かもしれないけれど、彼の作る空間ほど光に満ちた美しい
ものを知らない。


フィンランドのセイナヨキにある図書館。北海道よりも遥かに北方に
ある地、陽は低く、日照時間は短い。日差しに頼る採光ではそも
そも冬など数時間しか明るく出来ないだろう。


南側高所に大きな窓があり、全面、外壁側にルーバーが設置され
ている。沈む間際にはすり抜けて日差しはあるものの、通常は全て
このルーバーに反射する。反射するのは天空光も含まれる。反射は
上向きの光線となって室内に入り込み、緩やかに弧を描く白塗装の
木天井面でさらに反射し、室内を包むように光を取り入れている。


どこから陽が入っているのか、拡散された光には方向性はなく終日
その自然光の元で本を読むことが出来る。


これは驚きの光空間だった。わざわざ開口をルーバーで塞いでしまう
不思議さとその効果、天井のカーブが実は光を映えるためのもので
ある事実。ずっと滞在し眺め、観察した後に自分なりに身を持って
理解したのだけれどあまりに衝撃的だった。これは実際、書物や
写真では説明の出来るものではない。感じたものにしか伝わらない
類の貴重な経験なのだと思う。


実はこの手法を一度実践している。これは道東のある施設の内観。
明るさの具合は計算が出来なかったので実地、検証を何度も試みた。

 

室内写真はどんよりした曇りの昼間。天空光の反射を利用している。
直射日光だけならこの大開口でも室内奥まで光を導くことは不可能
だろう。陰影の印象的な空間には成れても健やかさや清潔感とは
掛け離れたものとなる。



このルーバーを使う方法の次いで特に気になる手法が入子だ。

やはりフィンランドの片田舎、避暑地でもあるらしいイマトラにある
ヴォクセンニスカの教会。これもまた素晴らしい光の空間だった。

これは西を向く高窓を描いている。外壁の窓と室内設えの窓は傾きが
あり入り込む光は屈折し、拡散して室内を包むことになる。10月にして
既に寒く、日照は極端に短くなっていた。しかも当日は雲に覆われ悪
条件が重なる。けれど室内はほの明るく印象的。しかも自然光のみで
十分に明るい空間には、やはり驚かされた。



知った以上は使わなければ損だ。知らずに信じても意味はない。
入子採光を実践する機会はないものの、光は常に念頭に置き、
必要な光を適切にデザイン出来するよう設計では心がけている。