風船 




建築における『光』とは風船における『空気』だろうか。


最近、思い付いた言葉なのだけれど、
空間の広がりを良く表せるのではと思う。


風船はただ空気は強く吹き込んでも膨らまない。
押し広げるようバランスよく吹き込む必要がある。
コツを飲み込めば、するすると膨らむ。


光のコツというのは、なかなか見当たらない。
そこは自然、人の都合などお構いなし。


ただ、諦めることなく、力まず、焦らず、丁寧に、
無理なく吹き込んであげるよう努める。






どれほど大きく、奥行きのある空間であっても、
光が届かなければ闇、空間は狭く閉じてしまう。
綺麗に膨らませるには、風船の如く。


強い光、日差しだけを追うとむしろ空間は閉じてしまう。
写真なら露出補正で救えるかもしれないけれど、
リアルな空間では補正は効かない。


強い光はコントラストを強めてしまう。
同時に見えなくなる、消えてしまう陰影がある。
そこにこそ、本来の深遠が潜む。失うには惜しい。


私は、写真のような強い輪郭を持たない、
優しい影を帯びるような光で膨らませるのが好きだ。
都合良くは扱えない光を採光方に使う数少ない方法。






闇(隈、陰)を知らなければ光は理解できないし、
光を見つけられれば、闇を理解することも出来るだろう。


光にも種類があるように、陰にも種類がある。
谷崎潤一郎が描き出す『隈』も、ある意味では光の一つ。
彼は闇を描きつつも最後まで、光を失わず。





写真は【bookshelf】より。
強く明るく輝く庭を、室内から穏やかに眺める仕組み。
その室内はどんな天気でも時刻でも、優しく浮かび上がる。


陰影の一コマのこの記事で。
白黒フィルムは光だけを写し撮る。少ない情報故に、
偽りの無い世界を切り取るに長ける。


谷崎を持ち出すまでもなく、人は誰しもが感じる、だたの光、
建築家はその光を空間に仕立てる存在。


・・・と、少し気取って書いてみた。











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