住まう楽しさ  〜サヴォア邸のスケッチより

■以前、書きかけたサヴォア邸での子供達のお話。


20世紀の巨匠、建築家 ル・コルビュジェの代表作となる住宅が
パリ近郊にある、それがこのサヴォア邸。世界で最も有名な住宅
の一つかもしれない。「なるほど名作だ」と理解することができる
のだろうか?初めての訪問は緊張と不安に満ちていた。


初冬の寒空、人影はない。その日は静寂と共にこの建築と向合い、
理解を深めるべく空間と語らうつもりだった・・・。




スケッチを始めると、どこからか子供達の一団が現れその静寂を壊す。
「余計な邪魔が!」と自分は思ったに違いない。在りのまま、これも
一コマとしぶしぶ受け入れ、その賑やな様もスケッチに描き込んでいる。


彼等が中に消えると外は静寂を取り戻す。やがてスケッチを終え自分も
「子供等が大人しく鑑賞していますように。」と願いつつ中に入る。




・ ・ ・ あれは何だろう?”蜘蛛の子を散らす”とはこういうことなのか
と実感する光景だった。エントランスの扉を開くと、広いホールがあり
有名なスロープや螺旋階と感動の対面をするハズだったのに、小さな
先客達はスロープを駆け登り、螺旋を滑るように駆け下り、どこをみても
散開して走り回っていた。鬼ごっこ?そう、鬼ごっこを楽しむにはこれ
以上はない住宅だったろう。2つの縦動線に回遊プラン、逃げ場も隠れ
場にも事欠くことがない。


そのあり様を見て「こういうことだったのか」と嬉しく感じたのを鮮烈に
覚えている。近代建築の5原則だの頭に知識は入れていたものの、本当に
大切なことはこの記念碑的な建築物も住宅であるということ。つまり、
住まうなら楽しい方がイイ。


子供達はサヴォア邸を「どう使うのか?」を身をもって教えてくれたのだ
と思う。まさかあんな光景を目の当たりに出来るだなんてラッキーだった。
・ ・ ・ サヴォア邸で遊んでも良いのか?怒られはしていなかったようだ。





それはちょうどアルテピアッツァ美唄での経験にも似ている。世界的に
有名な彫刻家の作品を見ることの出来る広場、芸術鑑賞などと気取りたく
なる。ここでは彫刻に触れても良い。すると子供達は一転、活躍しだす。
触れると暑い冷たいを感じる。やがて跨り、登り、抱きつきだす。全く
自然に、自由に彫刻と戯れ遊び始める。芸術作品を正に楽しんでいる。


子供は良質な指標なのかもしれない。頭ではなく体で感じることが出来、
その使い方を身を持って現すことができる存在だ。どれほどオシャレで
かっこの良い住まいでも子供達が輝かぬ様ではなにかが違うのかもしれ
ない。楽しむこと、これは基本中の基本ではないのだろうか。


以来、設計の際はどう「楽しむか?」公言せずに密かにであっても常に
求めて設計を試みている。鬼ごっこ、かくれんぼが出来るならパーフェクト
だろうなと思う。その心はまたの機会に書いてみよう。





bookshelf、札幌近郊にあるこの住宅、実践できた一つだと確信している。


二世帯の住まう家、多くの要望に、動線を数多く確保することで応え解く
プランを提案している。当初は1つだった階段も、2つ造り応えている。
その結果、非常に多様な動線が生まれている。


何が出来るかと言うと、鬼ごっこ、かくれんぼが出来る。竣工引渡し式は、
「かくれんぼ」であった。設計者の要望に仕方なく付き合うクライアント、
現場担当者達、しかし、やがて上着を脱ぎだす程に白熱することとなる。


イヤー面白かった!実に記憶深い体験となりました。