軒  その1  ■S-house vol.10

建築をより良くするためには、発想しイメージを絵にする「計画」、実際に
図面を製作する「実施設計」、そして”現場”の「監理」が欠かせない。
現場が動き出すと、「監理」業務が始まる。


「現場管理」は安全、工期、コストを管理する施工者の業務。
「設計監理」とは各種工程に立会い、設計仕様に基づいて施工されて
いるのか確認し、材料、製品や色などを選定するなどが主だろうか。


実際の”現場”では「どのように造るのか?」という大きな問題もある。
性能、品質、仕様が同じでも仕上がりが同じなることはない。造るなら、
より良く、綺麗に仕上げたい。その具体的な納まり、所謂ディテールを
検討することも重要な仕事の一つとなる。(大雑把な言い方ですが。)


その決定過程をS-Houseの軒先部分の例で案内してみようと思う。







      




実施図面では、通常1/30スケールの矩計図が最も詳細な図面となる。
掲載画像のような具合、「何かがある。」ことが示されている。


実際に施工する人にとっては、この「何か」を具体的にする必要がある。
ディテールは、その全てが図面に表現されるものでもはなく、”現場”で
管理者(担当者)や職人と共に築き上げる性質のものとも言える。






    




S-Houseではプレカット図に付随して、このような絵が提出された。外壁の
頂上、屋根の端部の詳細図。ここは防水性能、外壁の通気などと関係し、
建物の輪郭となって外観の印象を作る意味でも、とても大切な部分となる。


一枚の大きな板が取り付き押さえ、さらに小さな部材が取り付き板金の
手掛かりとなっている。段々形状の一般的な「破風」の納まりだと思う。






壁や屋根など違う部位や素材が交わる場所は、常に検討すべき納まりが
ある。一般的には、この提案のように何か違うものを上に当てて処理する
ことが多い。しかし「何かを足す」方法はシンプルさを損なうかもしれない。


S-Houseの板金外壁はシンプルにすっきり見せたいと考えていた。実施
図面で意図したことを、具体的に「どう造るのか?」を考えることとなる。






          


2案を提案する。何かを当てて処理するとしても出来るだけ小さな部材を
検討を試みた一案と、板金のみでシンプル解消する本命のもう一案。


シンプルに解消する納まりには工夫が欠かせない。一般的ではない故に、
担当者はもちろん、大工、板金職人も参加し、一緒に考える機会となった。


私が先ずは「こうしたい!」と伝え、では「どう造るのか?」を皆で考え取り
組む。思案の末、もっともシンプルなディテールを採用することが出来た。
性能、難易度、仕上がりともに納得できる一案に至れたのではと思う。


描いたディテールのスケールは1/2。実施図面の10倍以上の精度。











”ディテール”を決めることは大変に難しい。なんとなく出来ることはない。


検討の際は機能、性能を損なわぬのが前提。製作に時間を要するものは
工程に関わる。また、予算内で製作出来るものでなければならない。
確かな施工技術と責任が問われること、どの一つをとっても容易ではない。


今はあらゆる部分に既製品がある。それらに頼り、悩むことなく安価な
納まりを使う工務店では「出来ません」の一言で終わることもある。確信も
なく、無茶な施工をされるのは論外だ。


工務店選びでは、このような取り組みが可能かどうかが一つの基準となる。
設計の意図とはクライアントと築いた要望のこと。造り手の都合ではなく、
この意図を具現化するための良好な環境は欠かせない。








S-Houseの施工者、K建設の担当K氏、最初は「そこまで求めますか?」と
躊躇されたかもしれない。良く理解下さり、現場はスムースに動いている。
で、ついつい、「こんなこと考えたのですが・・・」と連絡してしまう。